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フジロック’20特別ライブ番組配信記念!「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」出演の6組に直前インタビュー

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フジロック
いよいよ明日に配信が迫った<FUJI ROCK FESTIVAL(以下フジロック)>の特別ライブ番組<FUJI ROCK FESTIVAL’20 LIVE ON YOUTUBE>。本イベントはフー・ファイターズ(Foo Fighters)ベック(BECK)ケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)レディオヘッド(Radiohead)シーア(SIA)ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)オアシス(Oasis)といった海外勢のみならず、Hi-STANDARDPUNPEECorneliusSuchmos平沢進+会人(EJIN)ONE OK ROCK井上陽水King Gnuエレファントカシマシ折坂悠太ELLEGARDENYellow Magic Orchestraなど日本のアーティストも含む総勢103組にもおよぶアーティストの過去のパフォーマンス映像が一挙に配信されるという超豪華な配信イベントだ。またそれだけでなく、電気グルーヴの新曲“Set You Free”のミュージックビデオやサンボマスターによる最新ライブ映像など、本イベントで初めて解禁される映像もふんだんに盛り込まれており、まさに見どころ満載の内容となっている。 中でも、「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」と題して実施される配信では、<フジロック>の新人アーティストの登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」のオーディションを勝ち抜いた若手アーティスト6組による、この配信のためだけの撮りおろしライブ映像が披露される。今後の活躍が期待されるアーティストたちのパフォーマンスだけに、もっとも注目したいコンテンツのひとつだ。 この度、Qeticではこの「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」に出演する6組にメールインタビューを実施! これを読めば、6組それぞれがどんなアーティストなのか、そしてどんな想いで今回の配信に臨んでいるのかがわかるはず。<FUJI ROCK FESTIVAL’20 LIVE ON YOUTUBE>の配信を鑑賞する前にぜひご一読を!

DAY 1

Bearwear

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 2016年にボーカル/作詞のKazmaとベース/作曲のKouがTwitterで出会い、それ以降様々なジャンルのバンドからライブメンバーを迎え入れ都内と神奈川を中心に活動中。2018年に1stミニアルバム『DREAMING IN.』、今年2020年3月に2ndミニアルバム『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』をリリースしました。 ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて <フジロック>の延期が発表された時はまだ僕らは今年の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」に自分たちが選ばれたことを知らなかったので、連絡が来たときはオーディションに勝てたことと配信になったことを同時に知り、嬉しさや驚きなど色んな感情が渦巻きました。結成当初から苗場で演奏することを大きな目標としていたので、配信になってしまい悔しい気持ちももちろんありますが、配信だからこそ多くの人に見てもらえるというメリットもありますし、これまでの自分たちの活動が評価されたことと、ライブもなかなかできない今こんな大きなチャンスを与えてくれたことが何より嬉しかったです。このコロナ禍でも<フジロック>がただ延期するだけではなく、新しいことに挑戦しようとしていて、その新たな試みに参加できる世界で最初のルーキーに僕らがなれたことを誇らしく思います。 ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ <フジロック>は知らない出演アーティストがいても「<フジロック>が呼んでるんだから絶対良いはず」と思える信頼できるブッキングをする数少ないフェスです。今年は配信という形だからこそ実現する贅沢すぎる並びで、<フジロック>がこれまで選んできたよりすぐりのアーティストがいっきに見れます。是非フジロックの嗅覚を信じて身を任せて知らないアーティストと出会うというフェスならではの楽しみ方を配信でもしてほしいです。 僕らBearwearを今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」で初めて知ってくれた方々、はじめまして。ルーキーまでチェックするアンテナを張っている相当な音楽好きだと思うので是非そういう方にガツンと響いたら嬉しいです。 Bearwearをこれまで応援してきてくれた方々、みなさんのおかげでここまでこれました。 みなさんに来年メインステージで俺らのことを見たいと思ってもらえるよう頑張ります。 ━━今後の活動予定は? 3月にリリースした僕らのミニアルバム『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』のツアーは残念ながら中止となってしまいましたが、また良いニュースをみなさんにお届けできるように準備中です!

Bearwear - “:LIVING IN THE ECHO CHAMBER (Episode 1)” | Short Film Music Video

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SARM

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 東京です。台湾、香港、タイのアジア圏やオーストラリアでもライブしたりしてました! ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて 今年は無くなったとおもってたのに!!! あんねや!! めっちゃ嬉しい!!! ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ 手洗いとうがいと消毒をしてよく食べてよく寝て健康で居てね! ライブで皆さんに会える日を楽しみにしています! ━━今後の活動予定は? 近々リリースするかも、、?

SARM - I don’t wanna do (Official Music Video)

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DAY 2

GAME CENTER

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 2018年に結成してEPとシングル合わせて二枚リリースしました。7月にはデジタルEPもリリースしました。メンバーは水野(Vo)とmichimaru(Gt)の2人で、今は水野が金沢、michimaruが東京に住んでいて遠距離活動なので拠点は金沢⇆東京といった感じでしょうか。 ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて 苗場でやりたかったというのはありますが、配信というROOKIE A GO-GOの新しい試みの第一回に出演できるのは本当に嬉しく思います。 ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ 初めましてGAME CENTERといいます。ライブ楽しんでくれると嬉しいです。 ━━今後の活動予定は? 曲をたくさん作っているので、アルバム制作だと思います。

GAME CENTER ”さよならサバーバン” (Official Music Video)

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MÖSHI

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 普段はNYを拠点に様々な制作活動を行なっています。ロンドンのセントラルセントマーチンズ芸術大学を卒業した後に、UNIQLOからスポンサーシップを受け、現在はNYのパーソンズ美術大学院にてファッションデザインを専攻しています。音楽家としては2年前から作曲を始め、今年から本腰を入れて制作していました。その結果、<フジロック>をはじめ、延期になってしまったのですが<SUPERSONIC>の最終ライブ審査進出、100byKSRへの選出、TOWER DOORSでのPOWER PUSHなど様々な経験をすることができています。 ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて とても素晴らしい試みだと思いました。ファッションショーも同じ状況なのですが、3月以降リアルでのイベント開催が難しくなっていく中でどのような配信の形が面白いのかということを考えてきました。これからはライブ配信を行う空間の作り込みは1つの重要なポイントだと考えています。その意味で、恵比寿リキッドルームという素晴らしい箱で多くのプロフェッショナルが関わり、圧倒的な映像を作る企画へ迅速にシフトした<フジロック>の試みに感銘を受けました。 ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ ライブパフォーマンスは勿論ですが、それに加えて今回はVJと組んでの映像演出も見どころだと思います。視覚、聴覚どちらも含めて総合的に楽しめるライブになっていると思うので、視聴者の方にもそれを楽しんでいただけたら幸いです。 ━━今後の活動予定は? まだ配信されている曲は少ないのですが、大量にデモがあるのでこれから順にリリースする予定です。また、9月末にライブが予定されています。ヒップホップのプロジェクトであるMÖSHIに加え、エクスペリメンタルな音楽を中心に制作しているNVMRという別名義もあるのでどちらもバランスよく進めていきたいと考えています。そして音楽と同時にその他の制作活動も徐々に再開していく予定です。<フジロック>でのライブを見て気になった方は是非Twitter、Instagram等で活動を追っていただけたら嬉しいです。

MÖSHI - Back And Forth (Prod by Pause Catti) | TOWER DOORS

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DAY 3

American Dream Express

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 2019年頭に下北沢で集い下北沢を中心に活動しています。 アメリカやブラジル、カナダ、もちろんジャパンも含めて様々な国のバックグラウンドを持つ仲間が集まったのが我らAmerican Dream Expressです。 block.fmに取り上げていただいたり、三茶”梅ちゃんバー”の隔月イベント、渋谷コンタクトでのライブなどを経て、今年ファーストアルバムを7インチと配信にてリリースしました。 ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて そもそもですが、出れんの? と思いましたが、COVID-19に負けない僕たちなら当然だと思いました。 たしかに苗場の大空も大好物ですが、どんな形でもまずエクスプレスしたい! ありがとう<フジロック>! 遠くない未来に、グリーンステージから、あれはあれでよかったよねと大声を出して、みんなで密になりたいと思っています。 ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ 皆でstoneになろう! ━━今後の活動予定は? 現在、<フジロック>に向けて、スタジオライブ映像の“STUDIO EXPRESS”を発表しています。ぜひ予習としてご覧ください。また、本年12月発表を目指して新曲を書いている毎日です。そちらもどうぞ!

“TAKE 2” - American Dream Express 【STUDIO EXPRESS!!!】

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草田一駿

フジロック ━━普段の活動拠点、経歴などをお聞かせください。 現在20歳で、大学入学を機に上京してからもう2年半になります。普段は都内の様々なライブハウスで演奏活動をさせてもらっています。 僕は5歳からピアノを始めて13歳頃から作曲もほぼ独学で始めています。好きな音楽に関してはジャンルによってアーティストを区別するということをあまりしたくないので、言わば雑食で色んなものを貪って聴くようにしています。 去年はオーディションで同い年のR&Bシンガー、RIRIちゃんとの共演が叶う等東京に来てからは色んなご縁を頂いていて本当に幸せな日々を過ごさせてもらっています。 ━━今回の「ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE」への選出が配信ライブという形になったことについて 僕も最初審査通過のメールを頂いた時は、それまで今年の<フジロック>が延期予定だと聞いていてまずないかなと思っていたので、正直びっくりしたのと同時に喜びが一入に身にしみましたね。 いざやってみると、僕自身もYoutubeでのライブ動画の配信は初めてだったので凄く面白くて新しい体験でした。これからはライブ配信も興行をする上で一つの選択肢になるんだなと実感しました。 ですが、個人的にはやはり音楽は生のライブが一番なので、早く状況が回復し皆さんと音楽を同じ時間同じ場所で共有できる日が戻ってきて欲しいですね。また僕の音楽は6組中唯一インストゥルメンタルなので、そこでまた違う角度からの音楽の聴き方に臨んでもらえればいいなと思っています。 ━━配信ライブの視聴者の方々へのメッセージ この度は世界的な新型コロナウィルスの感染拡大によって、多くの方々にとっての、今までの何気ない日常や貴重な機会が失われてしまったことを心よりお見舞い申し上げます。 音楽だけで世界を劇的に変えるのは決して簡単なことではないです。ですが、僕は音楽に限らずアートの本質は何かを「動かす」ことにあると思います。経済を「動かす」ことでもあれば、政治的なイデオロギーを「動かす」こと、人の心、魂を「動かす」ことでもある。生命という水の流れのような悠久の変化の連続の中で、アーティスト達は常にその流れが淀まないよう変化を促し続け、今も様々な方法を駆使して世界中で声を上げ続けています。 それこそアーティストの使命だと思います。 オーディエンスの方々に出来るのはその力を信じ、身をあずけて頂くことです。このライブ配信が皆様にとって一つの変化を感じるきっかけになることを心より願っています。 ━━今後の活動予定は? 今のところ、このような流動的な状況なのでライブ活動の目処はまだたっていませんが、取り敢えず近日中に3rdシングルをストリーミング配信できればと思っています。 またこれはまだ妄想段階なのですが、大学卒業までにクラウドファンディング等を活用して、全て十代の頃に書いたオリジナルを以てフルアルバムを一枚制作、リリース出来ればと考えています。 まだまだやりたいことは一杯ありますね。

Kazooshi - Ideal

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FRF ’20 LIVE ON YOUTUBE ARTIST LINEUP

配信はこちら 詳細はこちら

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xiangyu × テニスコート <香魚荘 #2> 事前ミーティング|”コロナ禍”だからこそ、できること

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香魚荘

満員のスタンディングフロアを前に、生声で叫ぶ3人組。“音楽イベント”にしては異質な光景。 ただ、彼らのコントは大勢の音楽ファンを前にウケていた。大盛り上がりだった。 昨年、渋谷O-nestでxiangyuの初めて開催した自主企画イベント<香魚荘827>。今年は新型コロナウイルスの影響により、入場を大幅に制限した上で、配信メインのイベントとして<香魚荘#2>が開催される。 コロナ禍による様々な制約がある中、今年の香魚荘ではどういった“異質な光景”が見られるのだろうか。企画者であるxiangyuと、昨年に続き2回目の参加となるコントユニット・テニスコートによる対談(もとい事前ミーティング)を通し、彼らが企てようとしていること、そして当日期待することについて、話を聞いた。

イベントのクラウドファンディングはこちら
香魚荘
小出 圭祐、xiangyu、吉田 正幸、神谷 圭介 (L→R)

xiangyu × テニスコート

コロナ禍が無かったら、テニスコートのラジオコントも生まれなかったかも

━━そもそもxiangyuさんが、昨年テニスコートを<香魚荘827>にブッキングしたきっかけは何だったのでしょう。 xiangyu もともと私がテニスコートのファンで。単純にずっとファンでいて、自主企画やるってなったから、これは! と思って出演オファーをしました。そしたら逆に彼らのコントライブに逆オファーを頂いたりもしましたね(笑)。日常に潜むどうでも良いちっちゃいことを、気味悪いけどポップに仕上げてるのが魅力です。 ━━では今年のブッキングを決めた時にテニスコートをオカワリした理由は? xiangyu 今は本当に様々な制約がありますが、彼らなら、そんな制約さえも味方につけてくれるんじゃないかと思ったからです。 神谷 圭介(以下、神谷) 確かに今の状況じゃないとできないようなこともあるだろうしね。コロナウイルスが収束したら、これまで通りのやり方ができるようになるからこそ、配信の中でも「こういうやり方をしたら良くなる」という工夫の仕方はある気がしています。 xiangyu 今出来るベストな方法を使って面白くまとめたいと思っています。それにコロナ禍がなかったら、<香魚荘#2>も通常通り行われる予定でした。そうなると、テニスコートさんのラジオコントも見れなかっただろうし、逆に良い機会なんじゃないかなって思います。

【香魚荘・事前ミーティング②】コロナ禍の香魚荘について(2020年8月10日)

━━テニスコートは<香魚荘#2>のリリースが出た際、「出演形態は当日までのお楽しみ」という謎の注意書きが気になってまして。言える範囲で、ヒントをいただけますか? 吉田 正幸(以下、吉田) 生のコントも会場から発信するのですが、オンラインで楽しめるようなラジオコントも準備しています。それから約10年前に僕らの活動で一度だけやったことを、もう一回チャレンジしたいなと。 普段のコントよりも観る側は解釈がしにくくなると思うのですが、当日の雰囲気で、自分のやりたいようにアレンジしていこうと思います。そう言っておいて、会場に着いたら全然違うネタをやるかもしれないですし。楽しみにしていただけると嬉しいです。やっとのびのびとやらせていただきます。やっとね。 xiangyu やっとのびのびと(笑)。ラジオコントは先日の<オンラインやついフェス>でも披露されてましたよね。すごく面白かった!私もラジオ好きなんですけど、やっぱ耳からの情報だけで面白いって良いなぁ。 神谷 ああいう試みは増やしていきたいです。小出(圭祐)さんの動くイラストも良い味が出てるしね。小出さんのイラストは、動かすとどんどん変な気持ちになるんですよ。感情が読み取りにくい。ナンセンスコメディに似合うんですよ。 xiangyu 小出さんがテニスコートのnoteで更新されている、だるまについての話も「なんでこれやってるんだろう」って思いました。意味わかんなすぎて(笑)。過去のインタビューにあった、大学時代の卒業制作で5円玉を集めて立体物を作ったって話も全く意味わかんなくて最高でした(笑)。 小出 圭祐(以下、小出) みんながかっこいいモノを作る中、僕は公民館に飾られている展示みたいなものが作りたかったんですよね。一般の人が楽しめるようなモノづくりに焦点を当てたくて、公民館とかでおばちゃんが展示している作品とかをよく眺めていました。手芸というジャンルの新しいモノを作るつもりでしたが、卒制だから真面目にやりましたよ。まぁ、もちろんギャグですけど。 xiangyu 「もちろんギャグ」(笑)。テニスコートさんはその「もちろんギャグ」ってスタンスで、ずっと続いている感じがします・・・・(笑)。 小出 普通は途中で誰かがそのスタンスを辞めるはずなんですけどね。でも、この状態でずっと続いちゃっているから不思議ですよね。

香魚荘

地下のアリの巣の中で楽しむテレビ番組

━━テニスコート以外で映像コンテンツを用意する出演者はいらっしゃいますか? xiangyu Ill Japoniaさんはイギリスから中継を繋いでライブをしてくれます。 このイベントは全コンテンツをテレビ番組のように構成するのですが、他にも「シャンユーのまち歩き」という横浜市・寿町についての番組では私が実際に取材に行って撮影した映像を配信します。 神谷 リモートだと海外からでも参加できますもんね。 xiangyu そうなんです。“どこからでも見れる”っていう利点を最大限に生かしたいと思って。<香魚荘>が配信するテレビ番組の生放送なので、基本はオンライン配信を観てもらって、人数に限りはあるけど、当日現場での観覧も出来る。テレビのイメージで作ってるから、音楽番組もあるし、コント番組もあるし。トーク番組もあるんです。 そして、今年のテーマは『地底』です。コロナ禍で人々が自分の部屋に引きこもって、パソコンと向き合い会議や飲み会をしている様子から、アリの巣やカッパドキアの地下都市を連想したんです。だからクラウドファンディングのリターン品も、地下の出土品っぽい土偶とか壁画にありそうな似顔絵にしようと・・・。

香魚荘
香魚荘

━━小出さん、『地底』と聞いて連想するものはありますか? 小出 ……アリが家に出るんですよね。 xiangyu どういうことですか(笑)。 小出 半分地下みたいな感じの家に住んでいるんですが、夏になると家の前にアリが集まって、家の中にも入ってくるんです。だから、アリは掃く対象であり僕の敵です。 吉田 でも、『地底』ってテーマと、アリの巣のイメージはヒントになりそうです。去年は鉄板ネタを当てに行った感じがあるのですが、今年の作品はもっと地底っぽいものを用意できそう。 ━━地下の各々の部屋で見るテレビ番組でいえば、音楽、コント以外には“トーク番組”枠もありますね。 xiangyu はい。宇宙衛星の開発に携わる安部眞史さん小林高士さん、そして小学館で図鑑の編集をしている小林由佳さんに出演いただいて、”宇宙衛星から見た地球が、今どんな健康状態なのか。コロナによって変化したことってわかるのか?”などを話す「コロナ禍の宇宙探検」という番組があります。

【香魚荘・事前ミーティング①】コロナ禍の宇宙探検

あとは「シャンユーのまち歩き」という番組では、私のライフワークである横浜市・寿町でのこの町に暮らす人々との交流エピソードや、炊き出し・現地の裏話などを、ゲストをお迎えして色々話したいと思います。 神谷 そういえばテニスコートの公演の挨拶文で吉田さんが宇宙にまつわる文を書いたことがありましたよ。「宇宙から見たら、宇宙人は車を生命体と捉えるんじゃないか」って。 吉田 宇宙から地球を見たら人よりも車の方が目立つし、車が地球を支配してるんじゃないかって。ガソリンスタンドでも、車が見えなくなるまで店員が頭を下げてるじゃないですか。だから、宇宙人は多分勘違いをするんじゃないかと。だから、サイドミラーを時々折ったりして「俺は屈してないぞ」とアピールすることを提案したいですね。衛星作ってる方にも話してみてください。 xiangyu わかりました(笑)。 吉田 でも去年、小林(由佳)さんから説教されたんですよ。小林さんがお客さんとして<香魚荘827>に来ていて。僕の声が小さいって言われました。 神谷 ライブハウスでガンガン音楽が鳴る中、マイク無しでコントをしたので。普段僕らがユーロライブのフットマイクにどれだけ助けられているかを痛感しましたね。 吉田 今回小林(由佳)さんがどれだけ大きい声を出すのかを楽しみにしてます。もはやトークを最前で見てやろうかと。 小出 そんなトークで大声出さないでしょう。ちゃんとマイクあるだろうし。

香魚荘
香魚荘

ライブ中、ニコニコしていたのが印象的でした

xiangyu なんか、当日もみんなでワイワイ喋りたい気持ちになってきた(笑)。去年はきっと初めて会うであろう出演者同士を、私が勝手に組み合わせを決めて行うクロストークをしたんです。 普通に生きてたらもしかしたら会ってないかも同士が会って話したら生まれる何かとか、自分ではチョイスしてこなかったけど、ひょんなきっかけで知ったことから広がる何かとかが面白いと思ってるから、またごちゃ混ぜやりたいですね。 ━━去年は音楽を聴きにきたお客さんがテニスコートのコントを観る、といったように、観客と出演者がクロスオーバーする瞬間もありましたよね。普段のコントライブの時と雰囲気の違いはありましたか? 神谷 僕らもジャンルをはっきり区切っていない分、異なるジャンルのところに入り込んでも馴染むんだと思います。シームレスな方が受け取られやすいのかなと。特にxiangyuちゃんの音楽を聞く人たちにとっては刺さりやすいのかなと思いました。 小出 去年はお客さんが僕らのライブ中、すごくニコニコしていたのが印象的でした。オールスタンディングで、立っているのも大変だろうなと思っていたんですが、最前列の柵に寄りかかりながらみんなニコニコしていて。「みんな楽しそうだな」って思いましたね。 吉田 確かにずっとニコニコしていたのは覚えている。 xiangyu でも吉田さん、もっと大事件を起こしていたじゃないですか。 吉田 ああ、運転免許の期限が当日に切れたんですよね。 xiangyu それで「このイベントがなければ……xiangyuのせいだ」ってずっと楽屋で言ってボヤいてました。 神谷 それはお前のせいだろ。だって2ヶ月の猶予があったじゃない。 吉田 いや、俺はこのイベントに賭けてたからね。それに、去年ツラい思いをした分、今年は大丈夫だから。 xiangyu 心強い(笑)!今年もよろしくお願いします!

香魚荘
香魚荘

Text by Nozomi Takagi Photo by 横山マサト

xiangyu 玉名ラーメン
xiangyu 2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。 読み方はシャンユー。 名前はVocalの本名が由来となっている。 2018年10月に初のデジタルシングル「プーパッポンカリー」。2019年5月、初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。 南アフリカの新世代ハウスミュージック、GQOM(ゴム)のエスニックなビートと等身大のリリックをベースにした楽曲で関東を中心に勢力的にライブ活動を行なっている。2020年1月には、東アフリカ、タンザニアの高速エレクトロ”シンゲリ“にインスパイアを受けた楽曲「ひじのビリビリ」、そして6月5日には2ndEP『きき』をリリース。

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香魚荘
テニスコート 神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸の3名からなるコントグループ。「テニスコートのコント」と題した自主公演を開催する他、書籍・雑誌などにイラストや文章の提供も行う。NHKEテレ「シャキーン!」に出演しているほか、構成作家としても参加している。 また、今回初めて無観客配信作品を制作、配信。 ≪期間限定配信≫ テニスコート【Streaming+】 「テニスコートのコント(無観客) cleaning staff」 配信開始日時:2020/8/24(月)19:30~ 配信チケット:イープラス

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EVENT INFORMATION

xiangyu

香魚荘#02

2020年8月25日(火) OPEN 18:30/開演 19:00 渋谷TSUTAYA O-nest TICKET: オンラインチケット ¥2,000 クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/279039) チケットぴあ(https://w.pia.jp/t/xiangyusou-pls/) 一般発売日:8月24日(月)10:00〜8月30日(日)19:00 配信期間:アーカイブ 8月30日(日)23:59まで 出演: LIVE 出演:xiangyu (Vo:xiangyu、Manip:Kenmochi Hidefumi、VJ:孔雀倶楽部) CONTE 出演:テニスコート *出演形態は当日までのお楽しみ TALK『コロナ禍の宇宙探検』 出演:安部眞史+小林高士(オリガミ・イーティーエス合同会社/JAXAベンチャー)、小林由佳(小学館・図鑑編集者) LIVE 出演:Ill Japonia *オンライン TALK『シャンユーのまち歩き(横浜市・寿町)』 出演:近藤昇(寿日雇労働者組合)、xiangyu イベント詳細・クラウドファンディング

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Interview|THE ALEXXがフジロック生みの親・日高正博に捧げた新曲 “Outsider”からみえたバンドとしての可能性

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THE ALEXX

昨年の<FUJI ROCK FESTIVAL'19>で初ライブが実現、2019年11月にリリースされたファーストアルバム『VANTABLACK』以降、そのダークなサウンドが徐々に波紋のような反響を巻き起こしつつあるTHE ALEXX。 SMASH代表・日高正博が立ち上げたレーベル〈REXY SONG〉初の日本人アーティストでもある彼らは、杉浦英治(Programing)tonton (Vocal)筒井朋哉 (Guitar)による3ピースバンドだ。 Electric Glass Balloon からSUGIURUMNを経てバンド/DJとして長いキャリアを経てきた杉浦を中心に、ニューウェーブ、ダブ、トリップホップ、サイケデリック、エレクトロなど様々なユースカルチャーの系譜を踏まえつつ、新たな形の陶酔感をもたらす楽曲を生み出している。 彼らの新曲“Outsider”は初の日本語詞による一曲。「反逆者」という楽曲のモチーフはレーベルヘッドでもある日高氏なのだという。バンドの成り立ちについて、新曲について、そしてこの先に見据えるものについて、3人に話を聞いた。

THE ALEXX

Interview:THE ALEXX

━━最近、コロナ禍で家にいることが増えたのもあって、自宅にいいスピーカーとサブウーハーを導入したんです。それで改めて実感したんですが、THE ALEXXの低音の鳴りは素晴らしいです。ここ最近のトラップにありがちな凶暴なサブベースというよりも、奥行きのあるダブやクラブミュージックの低音が鳴っている。 杉浦 英治(以下、杉浦) ありがとうございます。なにしろエンジニアのzAkさんのミックスはすごいですから。 ━━改めてTHE ALEXXの成り立ちから聞ければと思うんですが、これは杉浦さんからはじまったプロジェクトなんですよね。 杉浦 そうです。 ━━SUGIURUMNとは別の表現方法を必要としたということでしょうか? 杉浦 もっと違うことをやってみたかった、という感じです。やっぱり、僕も今の世の中に対してやりたいことが沸き上がってくるタイプなので。もちろんSUGIURUMNを辞めるつもりもないけれど、それとはレーダーが違う感じだったんじゃないかな。 ━━筒井さんとtontonさんとの3人組になった由来は? 杉浦 最初は別の子をヴォーカルにたててやっていたんです。でも、その子は素晴らしい才能のある子だったんだけど、もっとインプロビゼーションみたいな感じでやっていきたいから同じ曲を何度もやるのはちょっと無理ということになりました。レコーディングも終盤だったから「え? 今!? どうしよう?」となって、tontonに声をかけたんです。 ━━筒井さんはElectric Glass Balloon時代からということなんで、杉浦さんとは長い付き合いですよね。 筒井 朋哉(以下、筒井) 会ってからは一番長いですね。でも、連絡を取り合っていない時期も結構長かったです。 ━━筒井さんとしては、杉浦さんから声をかけられて、どんな第一印象だったんでしょうか。 筒井 嬉しかったですね。6年前ぐらいにSUGIURUMNのアルバムにギターで僕が参加したことがあって。その時にも杉浦くんが書いた曲にギターを乗せる作業をしたんですけど、すごくしっくりいったんですよね。昔一緒にやっていただけあって、気心が知れた中でやっているので、やりやすいですよ。 ━━tontonさんもSUGIURUMNのいろんな曲にヴォーカリストとして参加してきたわけですよね。 tonton はい。いろんな曲で参加させていただいていたので、杉浦さん節は染みついています。プロデュースもしてもらったことがあるので。 杉浦 結果、気心の知れた3人になって、よかったなと思っています。 ━━THE ALEXXは去年にデビューアルバム『VANTABLACK』をリリースしたわけですが、その手応えや反響はどんな感じでしたか? 杉浦 まずマイナス面から言うと、去年の<朝霧JAM 2019>が台風で中止になってしまって、今回の<フジロック>も延期になってしまったので。僕らだけじゃないんだけど、初っ端からバンドを知ってもらってステップアップしていく機会である大きなイベントがなくなっちゃったというのは大きかったです。ただ、Electric Glass Balloonからこれまで、THE ALEXXのここまでダークな音楽性みたいなものはやっていなかったので、確実に世界は広がりました。

VANTABLACK - THE ALEXX

tonton 私にしても、今まで自分の中になかったものなので、周りからもすごく好評ですし、今までにない可能性を感じています。いろんなことをやっていいんだって、すごく楽しく向き合える音楽ですね。 筒井 僕はずっとギタリストとしてやってきたわけですけれど、THE ALEXXは今までやってきたこととは違う空気感を封じ込めるような作り方で。それが僕としてはチャレンジだったし新鮮でした。そうやって作ったアルバムをいろんな人が聴いてくれて、褒めてくれたり、認めてくれたのは、とても嬉しかったです。自信になりましたね。 杉浦 曲を作る時に、アイディアを持ち寄らない、手癖を使わないって決めていたんです。本当にゼロから、瞬間のひらめきから作っていく。だから、どんな音楽ができるかもわからないし、曲によってはリズムから作ったり、持つ楽器を変えてみたり、これまでとは全然違うやり方でした。うまく言えないですけど、きれいな水だけで作ろうとしたというか。そういう瞬間を見逃さないように作った感じです。 ━━THE ALEXXの音源を聴いてライヴを観たときに感じたのは、ダブやトリップホップやサイケデリックロックのような今に至るまでのロックやクラブミュージックから陶酔感、トリップ感を抽出して構築しているような感覚だったんですね。杉浦さん自身いろんな文脈を通ってきているとは思うんですが、そういったカルチャーとのリンクは意識していましたか? 杉浦 もちろん、たとえば「チャラい奴はやらない」とか、当たり前に決めていたことはあったんですが、曲ができてみて初めて感じたことはめちゃくちゃあります。でも作っているときは、最初から引き出しを広げて始めたわけじゃなかったんです。むしろ偶然とかハプニングがきっかけで、その後の引き出しが増えてくるような感じだった。5個サイコロを振って同じ目が出ないようなのと同じで、もう一回最初から同じものを作れないことをやってるなって思ってました。

The Alexx
The Alexx
The Alexx
SHIBUYA CLUB QUATTRO GAN-BAN NIGHT SPECIALにて
THE ALEXXライブレポートはこちら

━━新曲の“Outsider”はどういうところから制作がスタートしたんでしょうか。 杉浦 “Outsider”に関しては、原石のようなものがTHE ALEXXをやる前からあったんです。もともとは僕とtontonでやろうとしていた曲があって、それを筒井くんにも聴かせたら「これ、いい曲だよ」って。そこから膨らませていった感じです。 ━━THE ALEXXとしては初めての日本語詞の曲になるわけですけれど。 杉浦 僕たちが所属しているのは〈Rexy Song〉という日高さんと豊間根(聡)さんのレーベルなんですけど、去年の<フジロック>が終わってアルバムを出した後くらいに日高さんから「なんで日本語でやんねえんだよ」って言われて。 僕が今までの人生で出会った人間で一番すごい人って日高さんなんですけど。『ONE PIECE』の伝説の海賊王みたいな迫力のある人、いわゆる神が言うんだからそれでやるしかないだろうって思いました。で、この曲は日高さんに捧げる曲にしようと思って、それで“Outsider”というタイトルにしたんです。アウトサイダーというのは、要するに反逆者。だから、筒井くんが弾いたギターとか、上モノは全部逆回転にしたんです。 ━━逆回転になってるんですね。 杉浦 やっぱり反逆者だからね。 筒井 どんどん音を入れていってたんですけど、途中で「これ、逆回転したらどうなのかな?」って杉浦くんが言って。そうしたら思いのほかよかった。そこから全部逆回転にしようという話になりました。風景のバックに何かが流れているみたいな感じの音になっていると僕は思っていて。結果よかったなと思っています。僕ひとりならそういうアイディアは出てこないんで。 ━━歌詞は杉浦さんが書いたんでしょうか? tonton そうですね。杉浦さんが日高さんを思い浮かべながら書きました。 杉浦 『やるかFuji Rock 1997-2003』(日高正博による著書)を机に置きながら書きました。でも、捧げている対象は日高さんだけど、それだけじゃないところもあって。やっぱり音楽をやるというのは、根底に世界をひっくり返してやるんだという気持ちがないと、とてもできないことだと思うから。こんなにいい音楽がいっぱいあるのに自分たちがやるっていうことは、多かれ少なかれ、そういうことだと思うんです。特に今は、時代的にも「夜明け前感」みたいなものがあるから、そういう感じが出てきている曲だと思います。 ━━THE ALEXXはダークでトリッピーですけれど、根底のところにパンクから来ているレベルミュージック感があるような感じがします。 杉浦 ありがとうございます。あと、tontonの日本語がいいよね。 tonton 英語で歌うのも好きなんですけど、やっぱり日本語だと言葉のきれいさもあって、歌っていて気持ちがいいですね。言葉も、杉浦さんの歌詞が素晴らしいので、歌っていてもスーッと筋が一本通っている感じがします。「英語じゃないの?」みたいな感じもなく、すっと入ってくるし。あの曲はお気に入りですね。

THE ALEXX-Outsider

━━6月には”Something Great”もリリースされていますが、コロナ禍のここ数ヶ月はどんな風に活動されていましたか? 杉浦 バンドはずっと途切れずに動いてます。スタジオに入ったり、集まって作り続けたりもしていたので。 ━━3月には青山にある犬のペットサロン「Dogman Aoyama」で無観客ライブをやっていましたが、あれはどういうアイデアだったんでしょうか? 杉浦 あれも、実はコロナでこういう状況になるからやったわけじゃなくて。なにか面白いことをやろうというので始まった企画だったんです。そうしたらみんな無観客ライブの配信を始めちゃって。最初に思いついていたのに、時代に追い抜かされちゃいました(笑)。

THE ALEXX DogMan Live -episode1-

動¥

━━犬だけが観客という不思議なライブ映像になってますね。 杉浦 卓球さんが言っていたんだけど、ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)の最初のライブのお客さんって人間2人と犬1匹だったらしくて。「犬の数ならお前らが勝ってたな」って(笑)。 ━━今後のTHE ALEXXとしての表現方法や活動については、どんなふうに考えていますか? 杉浦 とりあえず、いい曲を作ることですね。みんながびっくりするような、目が覚めるような曲を作りたい。まずはそれですね。もちろん今年の<フジロック>を目標に頑張ってきたので、それがなくなっちゃったのはショックではあるけれど。 ━━tontonさん、筒井さんはどうでしょう? tonton 私も杉浦さんも1人でずっと音楽をやっていたので、こういう3人、仲間がいると、コロナ禍でも楽しく音楽ができるし、すごくありがたいなって。本当に音楽が楽しく感じます。 筒井 やるたびに発見があるし、新鮮でフレッシュなんですよ。よく話すんですけど、引き算の美学というか、大事なものだけ音に込めるというのをTHE ALEXXは大事にしているので。 ━━杉浦さんとしても、THE ALEXXでやれることがどんどん広がっている感じはありますか? 杉浦 なんでもできますね、この感じは。強力な3人だとは思っているので。完全に僕はこっちにシフトしちゃってます。本当に次が楽しみで仕方ないです。バンドを始めて、家で聴く音楽もコロナ禍とか関係なしに完全に変わってきているんです。最近はThe 1975ばっかり聴いてたんですけど、DJだけやっていた時には聴いてなかったものも含めて、いろんな音楽を聴くようになりました。 ━━“Beatwave”は石野卓球さんのリミックスバージョンもありましたけれど、逆にTHE ALEXXが誰かの曲をリミックスするのも面白そうですね。 杉浦 そういうのもやりたいですね。ほんとにこのバンド、なんでもできちゃうんですよ。例えば“Something Great”のダブミックスもバンドで作ってるし、“Outsider”もライブではもっと長いバージョンでやっているので。すごく自由な感じです。

THE ALEXX
THE ALEXX
FUJI ROCK FESTIVAL'19にて

Text by 柴 那典

The Alexx
THE ALEXX tonton (Vocal)、筒井朋哉 (Guitar)、杉浦英治(Programing)による3ピースバンド。 音源リリース前のFUJI ROCK FESTIVAL'19にて初ライブを披露したのを皮切りに活動をスタート。 2019年9月にデビューシングル『Beatwave』、11月にファーストアルバム『VANTABLACK』をリリース。 2020年5月に配信限定でリリースした『Beatwave (Takkyu Ishino Remix)』はSpotify、Apple Music等各種配信サービスに特集され、緊急事態宣言下の東京で撮影された同曲のMVも話題となる。 その他にもバンド初のライブ映像作品「DogMan Live」episode 1からepisode 3をYouTubeで公開する等、2020年代の日本の音楽シーンで異質とも言える独特な世界観を多角的な手法で展開し続けている。

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RELEASE INFORMATION

THE ALEXX

Outsider

2020.08.21(金) 配信限定 THE ALEXX ファーストアルバム『VANTABLACK』以降も『Beatwave (Takkyu Ishino Remix)』や 9分47秒の大作『Something Great』のリリースで注目を集めてきたThe Alexx。 今作『Outsider』は6作目のシングルにして初の日本語詞による楽曲となった。このビートから伝わってくるのは、2000年以降のダンスシーンを生き抜いてきた彼らの原風景であり、終わりのない旅の途上に現れたいくつもの夜明け。走り続けたからこそ響かせることのできるストーリー、その背景まで描いた5分間のロード・トリップ。丁寧に作りこま れた緻密なサウンドと儚く浮遊感に満ちたボーカルは今作もリスナーの耳を心地よくダークなアレックスワールドに引き込んでゆく。 配信・ダウンロードはこちら

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Netflix「攻殻機動隊 SAC_2045」から見るテクノロジーの進歩|5Gで実現する未来とは

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攻殻機動隊

世界中に驚きと刺激を与え続けてきた「攻殻機動隊」シリーズ待望の最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』が、この春Netflixで全世界独占配信スタートした。 今作は『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズの神山健治と、『APPLESEED』シリーズの荒牧伸志によるダブル監督で手掛けられ、Production I.GSOLA DIGITAL ARTSによる共同制作スタイルで「攻殻」史上初となるフル3DCGアニメーションの作品となっている。 「攻殻機動隊」シリーズの近未来的な世界観が現実世界の技術発達により近づいてきたのではないかと錯覚するシーンも多かった。今回、『攻殻機動隊 SAC_2045』の配信開始に合わせてKDDIがスタートした『au 5G × 攻殻機動隊 SAC_2045 "UNLIMITED REALITY"』はARやVRなど最新の技術を使ったテクノロジーコンテンツで溢れ、まさに攻殻機動隊の世界観を思わせる充実した内容だった。au 5Gが普及すれば、さらに拡張された世界が日本中で体感できるようになるはずだ。 この度、Qeticでは『「攻殻機動隊 SAC_2045」から見るこれからの未来』というテーマでコラムを展開する。本作を鑑賞した方も未見という方も、攻殻機動隊の世界観と現実とを比較しながら、これからの未来の形を思い描いてみてほしい。

シリーズと一線を画す『攻殻機動隊 SAC_2045』の新しさとは?

2002年に『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズが世に放たれてから18年、『2nd GIG』から数えれば16年が経過した今年は2020年。あの当時では「理解」するのに精一杯だった背景や技術も、今では日常に浸透しつつあり、絵空事として受け取るしかなかった思想が自然と読み取れるようになっている。 折しもコロナウィルス禍による緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大して1週間が経過した4月23日(木)からNetflixで配信された『攻殻機動隊 SAC_2045』は、不安を抱える生活者の前に今までの世界観に対しての納得感と、これからの希望を携えて凱旋とばかりに我々の前に現れた。 きっと、すでにゴールデンウィークもといSTAY HOME週間に視聴した方も多いのではないだろうか。 今作の舞台である2045年は、世界規模の経済災害「全世界同時デフォルト」が発生した事で、貨幣や電子マネーの価値は暴落し、銀行預金も大きく目減りしてしまっている社会だ。 そんな不安定な社会情勢のため、世界は“計画的かつ持続可能な戦争”つまり、ビジネスとしての戦争が各国で勃発している(通称「サスティナブル・ウォー」)。 そんなポスト・アポカリプス感あふれる世界で、草薙素子少佐バトーたちおなじみの元公安9課の面々がアメリカ西海岸で傭兵部隊「GHOST」として無法者を鎮圧しているところから物語は始まる。

攻殻機動隊

おなじみのタチコマ光学迷彩など、3Dアニメーションを活かしたアクションが惜しげもなく展開されると、「ああ、彼らは彼らなりに過ごしていたんだな、おかえり!」と感じられるだろう。 しかしそう思ったのも束の間、「GHOST」の皆さんはNSAアメリカ国家安全保障局)の手によって半ば拉致され、強制的に秘密の任務を課されてしまう。ヒリつくような空気感も健在だ。 現在配信されているシーズン1は大きく2部に分かれている。 前半部分トグサがいない「GHOST」が任務にあたっている中、当のトグサはかつての公安9課長荒巻から9課再建のため少佐を追跡するよう命じられ、新人類「ポスト・ヒューマン」をめぐる事件に到るまでの導入部分。いわばチュートリアルだ。攻殻機動隊シリーズを未履修の人でも安心して物語世界に入っていけるはずだ。 そして後半は「ポスト・ヒューマン」に迫っていく本編として、SAC_2045の物語が本格的に始まっていく。そう、求めていた「攻殻機動隊」そのものだ。 本作はシリーズ初の3DCGアニメーションになる。 少佐たちのCGモデルに対して、トレーラーやニュースなどで発表された直後はファンから不安まじりの期待を集めていたのは確かだ。しかし一旦視聴してみると、どうしても情報量が多くなってしまう「攻殻」を3DCGで作るにあたり、ちょうど良い塩梅であることがわかるだろう。ちょっと若いかもと感じる新しい少佐のデザインも、新時代の少佐として魅力的だから安心して見て欲しい。

攻殻機動隊

高速なネットワークが攻殻機動隊の世界に追いついた

『攻殻』と言えば、電脳化された人間がネットワークを介したコミュニケーションを行う演出が見所であるが、VRARMRも身近になった現在では、さほど驚きを感じなくなっている。 一昔前ならテレパシーのように思えた電脳ネットワークの会話も、今では手が届きそうな技術になっている。 紙の書類にオーバーレイされる顔写真のようなAR技術も、ゲーム画面のHUDのようなインターフェースも、VRの世界ではすでに当たり前のように実現している。

攻殻機動隊

本作で扱われている社会問題も仮想通貨詐欺移民問題、そしてネット炎上など、現実世界でも馴染みの深いものが多い。 そういった意味では、あまり「新しさ」を感じない『攻殻』であることは間違いない。しかしその目新しさを感じない問題提起こそが、時代が追いついた感が今作の魅力ではないだろうか。 つまり、本作『攻殻機動隊 SAC_2045』は、今まで『攻殻』が提示してきた未来に対しての答え合わせのような作品である。 まもなく手が届く「未来」を前に、これからの社会をどう生きていくのかを示す基準点になり得る力を持っていると言える。

5Gだったらこんな未来に連れて行ってくれる

ワークフロムホームの掛け声で、テレワークが急速に進んだ今、様々な業種のビジネスパーソンがビデオ会議や大容量のデータ通信を当たり前のように使うようになった。まるで9課の面々のように。 そこで重要となるのがネットワーク、つまり回線だ。 今日のブロードバンドや4GLTEなどの回線では少し大きなデータをやりとりするには少なくない時間が必要となるし、ネット上で何らかの行動を行う際は、大なり小なりラグが生じる。 会議レベルのビデオチャットなら実現できていても、流石に『攻殻』みたいなVR/ARデータのやりとりをストレスなく行うためには……とか、ほとんど自律して飛行しているドローンを操縦するくらいならワイヤレスでできても、タチコマを遠隔で操縦するのは……と考えていくと、どうしたって通信という壁が立ちはだかってくるのが現実だ。 でも、もしかしたら今年2020年3月からサービスが開始された5Gならこんな未来に連れて行ってくれるのではないかと思うのだ。 5Gは、4GLTEよりも格段に通信速度が向上し、今までは物理的なメディアや有線での配線を介さないと難しかった大容量のデータのやり取りも高速に行えるようになるという。
ブルーレイのような4K動画などのUHD映像のデータや、VRデータも長時間待たずとも、すぐに楽しめるという。 これくらいの速度が使えるのであれば、今作初登場キャラである江崎プリンが捜査の過程で事件現場のVR空間を現場検証するシーンで使うような、リアルタイムで3D空間を共有するような用途でも実現できるんじゃないかと思えてくる。 屋内でも、屋外でも、ネットワーク上のデータをスピーディーに扱えるようになるのは、きっと馬車から自動車に進化したようなブレイクスルーを起こしてくれるのではないだろうか。

攻殻機動隊

おうちで攻殻機動隊の世界を先行体験してみよう

とは言え、まだまだ『攻殻』の世界には程遠い現代テクノロジーにおいて、あの感覚を味わえるコンテンツがたくさん用意されているのでどうか試してみて欲しいところである。 実際に、「au 5G × 攻殻機動隊 SAC_2045 "UNLIMITED REALITY"」の「タチコマ AR」やVRコンテンツである「渋谷複合現実化ミッション」は、これぞ「攻殻機動隊の世界!」と興奮できるのでぜひお家で試してみて欲しい。 可愛いタチコマが声付きでケータイに登場してくれるのは自分が9課に入ったみたいで面白いし、スマートフォンを持っていれば気軽に試せるのでおすすめだ。 またVRヘッドセットスマホVRゴーグルを持っていれば、少佐とバトーが敵アンドロイドとバトルする臨場感たっぷりな体験が味わえる。近くに寄るバトーはかなりの威圧感でグッとくること間違いなしだ。そして渋谷のスクランブルスクエアの展望台から臨むスクランブル交差点に煌くARネオンは必見だ。本編を視聴していれば、敵アンドロイドのモーションにもニヤリとできるだろう。 世界を覆うコロナ禍で、バベルの塔の崩壊よろしく人々の繋がりが断絶しかかっている。ソーシャルディスタンスを心がけることで、職場の同僚や友人とも隔たりが生まれてしまっている今、5Gによってもたらされる新しい電脳世界が隔たりを埋めてくれるような予感がする。 新しい「攻殻機動隊」とau 5Gが示してくれる未来はまだ始まったばかりだ。それらに期待しつつ、家で過ごすとしよう。

攻殻機動隊

Text by 宮本夏樹

INFORMATION

au 5G × 攻殻機動隊 SAC_2045 "UNLIMITED REALITY" – 渋谷複合現実化ミッション

渋谷の風景を拡張せよ。5G時代のエンタメ体験!UNLIMITED REALITY - 渋谷複合現実化ミッション カメラ付きXRゴーグルを装着し、街の風景に『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界が合成される体験型XRコンテンツ。 渋谷で実施予定だった体験を、あなたの家でも楽しめるようにオンラインコンテンツ化!

スクランブル交差点を舞台に少佐やバトーが、ハッカーと戦うオリジナルストーリーを、360°のVR映像で楽しもう。

【ストーリーあらすじ】 渋谷の街が、何者かにハッキングされたーー。 公安9課の新人であるあなたは、その情報を受け、 スクランブル交差点を見下ろせる東急プラザ渋谷の屋上に到着。 すると始まる電脳通信。そこに現れたのは...。 ハッカーによる電脳攻撃に対抗するため、渋谷の街に攻殻機動隊、出動。 詳しい情報は、WEBサイトをチェック!

詳細はこちら

公安9課インスタフィルター

攻殻機動隊

「#公安9課プロフハック」チャレンジ実施中。 公安9課インスタフィルターを使って、限定グッズを当てよう!

詳細はこちら

UNLIMITED REALITY – タチコマAR

攻殻機動隊

アニメの世界から、飛び出すタチコマ。

実とバーチャルを融合するXR技術(AR/MR/VR)とスマートグラス「NrealLight」を駆使し、 人気キャラクターのタチコマが目の前に現れるコンテンツ。 実際に渋谷の街で発信されている5G電波を活用すれば、より高精細でリアルなタチコマが動く・喋る・撃ちまくる、 UNLIMITEDな驚きが作り出せるようになる。

詳細はこちら

攻殻機動隊 SAC_2045

攻殻機動隊

Netflixにて全世界独占配信(※中国本土を除く) メインキャスト 草薙素子:田中敦子/荒巻大輔:阪 脩/バトー:大塚明夫/トグサ:山寺宏一 イシカワ:仲野 裕/サイトー:大川 透/パズ:小野塚貴志/ボーマ:山口太郎/タチコマ:玉川砂記子 江崎プリン:潘めぐみ/スタンダード:津田健次郎/ジョン・スミス:曽世海司/久利須・大友・帝都:喜山茂雄/シマムラタカシ:林原めぐみ

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊) 監督:神山健治 × 荒牧伸志 シリーズ構成:神山健治 キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ 音楽:戸田信子 × 陣内一真 オープニングテーマ:「Fly with me」millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045 エンディングテーマ:「sustain++;」Mili 音楽制作:フライングドッグ 制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS 製作:攻殻機動隊2045製作委員会

Ⓒ士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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藤井道人監督が最新作『宇宙でいちばんあかるい屋根』に込めた願い「周りの人を理解できる世の中に」

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宇宙でいちばんあかるい屋根

政治の闇に切り込んだ『新聞記者』で、日本アカデミー賞6部門を受賞して注目を集めた映画監督、藤井道人。テレビドラマ、CM、ミュージック・ビデオなど幅広い分野で活躍。ミステリー、青春ドラマ、社会派サスペンスなど、様々なジャンルの物語を描いてきた藤井監督は、日本の映画界の新世代を代表する一人だ。そんな藤井監督の新作『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、野中ともその人気小説の映画化。恋のこと、家族のこと、様々な悩みを抱える14歳の少女、つばめは、ある日、不思議な老婆、星ばあと出会う。本作が映画初主演となった清原果耶は、Coccoが作詞作曲を手掛けた映画主題歌“今とあの頃の僕ら”で歌声も披露。星ばあを日本映画界のレジェンド、桃井かおりが演じてユニークなキャラクターを生み出した。原作を読んだ時、映画化するのは難しいと思った小説を、どんな風に映画化したのか。そこに込められた想いについて藤井監督に話を訊いた。

INTERVIEW:藤井道人

宇宙でいちばんあかるい屋根

━━今回は『新聞記者』とはガラリと趣を変えた作品ですね。 実は4年前くらいに頂いた企画なんです。いくつか映画化用の原作を提案されて、そのなかで、いちばん難しそうな原作だったのでこれを選びました。 ━━難しい、というのは、どういうところが? 当時、僕は29歳でヒロインは14歳の女の子ですからね。距離があって難しいんじゃないかと思ったんです。その後に『青の帰り道』『デイアンドナイト』を撮って、20代の時に思っていた社会に対する負の感情は全部出し切った気がしたんです。結婚したことも影響して、優しい作品に触れる必要があると思ったんですよね。そこに『新聞記者』がイレギュラーで入ってしまったんですけど、30代に入ったらこういう映画を撮りたいと思っていたんです。 ━━映画の製作に入ってからは、最初に感じていた「難しさ」をどんな風にクリアしていったのでしょうか。 つばめをすべて知ろうとすると失敗するだろうなって、プロットを書いている時に気付いたんです。それで、(つばめの同級生の)笹川マコトの目線で脚本を書くことにしました。中学の時にクラスで全然喋らなかった、もしくは、ちょっと可愛いなと思ってたけれど、自分とは接点がなかった窓際にいたあの女の子はどんな子だったんだろう……。みたいな好奇心から始めるとすごくつばめを描きやすくなって、つばめっていう女の子に興味が出てきたんです。 ━━自分の10代の頃の記憶や感覚を呼び覚ましながら、脚本を書いていったんですね。 昔の写真をいっぱい見直して、記憶の海を泳ぎながら書きました。「ああ、すっごい昔、オレンジの服をよく着てたな」とか思い出したりして。笹川マコトがオレンジの服を着ているのはそのせいなんです。

宇宙でいちばんあかるい屋根
宇宙でいちばんあかるい屋根

━━笹川は監督の分身でもあるんですね。14歳の頃、監督はどんな少年だったのでしょう。 1年のうち363日、剣道をやってました。東京の中野という街で生まれたんですけど、不良もオタクも仲が良い変な街でいじめもなかった。そういう環境で育ったので、あまり他人に壁を感じたりすることはなかったですね。 ━━体育会系だったんですね。映画とはどんな風に出会ったんですか? 高一の時、一日ひとつ何かをやろうぜって友達と決めたんです。その時、近所にTSUTAYAができて。それでレンタルビデオを借りて一日一本映画を見るようになったんです。 ━━映画で、つばめは水墨画に出会って新しい人生を見つけますが、監督の場合は映画だったんですね。 近いものはありますね。僕は父親が剣道の師ということもあって、ずっと剣道を続けるのが嫌になった。それで逃げるように大学の映画学科に入学したんです。そして、18歳の時からは映画しかやってないですね(笑)。

宇宙でいちばんあかるい屋根
宇宙でいちばんあかるい屋根

━━剣道から映画へ、世界が大きく変わったんですね。映画に話を戻すと、原作を脚色する際に気をつけたことはありますか? 物語の大事なところは何だろうと、原作を解体する作業から始めました。原作者の野中さんに挨拶させてもらった時に、「映画は映画なんで自由にやってください」って言ってくださったのが救いでしたね。最初は本を読みながらプロットを書いていたんですけれど。後半はあえて読まないようにしました。原作は原作の良さがあるし、映画には映画じゃないと出せないことを監督として知らなきゃいけないと思ったんです。本を読み返さずに自分の言葉で脚本を書く。「自分の中の星ばあはこう話す」っていうふうに考えていきました。 ━━星ばあは桃井かおりさんの演技が加わることで、さらに個性的なキャラクターになりましたね。 桃井さんは撮影前日にLAからいらっしゃったんです。「かおりが来たから大丈夫よ!」ぐらいの感じで(笑)。僕らからしたら桃井さんはレジェンド。めっちゃ怖くて言うこと聞いてくれなかったらどうしよう、と思ったりもしたんですけど、桃井さんがやられたお芝居に対して「桃井さん、それは違って僕はこういう表現をしたいんです」って言うと、「あ、そっち?」って感じで僕の意見に合わせて演じてくれました。 ━━自分の芝居をしながら柔軟に対応してくれた? まあ、たまに言うことを聞いてくれなかったこともありますけど(笑)。桃井さんは監督もやられているので、自分の中で見えているヴィジョンがあると思うんですよね。それをやりたい時は、すごくロジカルに説明してくれるんです。例えば、大事なことを言う時は相手の目を見れない。だから(演技でも)相手の目を見たくないんだ、とか。それはすごく納得したし、そういう桃井さんの説得力は自分が演出するうえで身になりましたね。 ━━つばめを演じた清原果耶さんはいかがでした? 以前、彼女が出演してくれた『デイアンドナイト』の時は、あえて彼女には演技について何も言わなかったんです。周りの役者にはいろいろ言ってたんですけどね。そうすることで、彼女が悩むことが役にプラスになったんです。でも、今回は逆で、星ばあがいない時は僕がずっと彼女のそばにいました。だから、彼女のいろんな表情を見せてもらったし、彼女と一緒に成長できた気がしますね。桃井さんとの関係も良かったです。清原さんは共演者の演技に反応するタイプなので、相手の言葉に気持ちがこもっていると良い表情をしてくれるんです。 ━━この物語は、つばめと星ばあの奇妙な関係が物語の軸になっています。監督は二人の関係のどんなところに惹かれましたか? 今ってみんな相手に忖度しすぎていると思うんです。言いたいことを言わない。すごく言葉を選んでますよね。ネットではみんなあれこれ言えるのに、直接、本人に言えなくなっているのはなんでだろうって思った時に、人間関係のあり方が変わってきている。希薄になってきているんじゃないかと思ったんです。でも、この二人にはそれがない。そこを描きたいと思いました。「お前のそういうところがダメなんだよ」って言われたいし、言いたいじゃないですか。それは家族でも良いし、恋人でも良い。そういう関係が結べる相手が一人でもいるといいな、と思いますね。

宇宙でいちばんあかるい屋根
宇宙でいちばんあかるい屋根

━━つばめは星ばあと少しずつ関係を深めながら成長していきます。撮影前まで桃井さんと清原さんが会ってなかった、というのも良かったかもしれないですね。撮影を通じて二人の距離が縮まっていくのと物語とがシンクロしていて。 そうですね。最初に屋上のシーンを撮った時は映画と同じように二人の間には壁があったけど、それが徐々になくなっていった。二人で海にいくシーンで、桃井さんが「今なんか(つばめと)シンクロした気がした」っておっしゃったんです。もう、撮影の終わりぎわだったんですけど、それも映画っぽくていいなって思いました。 ━━つばめと星ばあが一緒に水族館に行くエピソードは、ドキュメンタリーのように撮影されてましたね。 あそこはほぼ二人の即興でした。このシーンではこういうことがしたい、というのだけ伝えて、あとはお任せでカメラマンの千蔵さん(上野千蔵)が自由に撮ったんです。 ━━その一方で、何度も登場する雑居ビルの屋上シーンは、作りこまれた美術が絵本みたいな世界を作り出していました。 あの屋上シーンは初めてのブルーバックで撮ったんです。周りは全部CGなんですけど、雲の量はつばめの葛藤を表していて、雲の量が変わるんですよね。最初、つばめはモヤモヤしているから雲が多いけど、後半になると雲がない。夜空の星の量は星ばあの命で、徐々に少なくなっていくんです。あと、二人が出会ったばかりの時は三日月で、すこしずつ満月になっていくとか。そういうのは気づかれなくても大丈夫なんですけど、自分の表現に対するこだわりなんです。

宇宙でいちばんあかるい屋根
宇宙でいちばんあかるい屋根
宇宙でいちばんあかるい屋根

━━そういう設定を知っていると楽しさが増しますね。本作は幅広い年齢層に楽しんでもらえる物語だと思いますが、コロナの不安がおさまらないなかで公開されることについてはどう思われていますか? 仕事や生活が大変なのはわかるんですけど、家にいる時間が長くなることでこれまで以上に自分の家族と向きあうことができると思うんです。僕はこれまで仕事で家をあけることが多かったけど、ここ一ヶ月、ずっと家にいると子供がようやく懐いてくれて。人を攻撃しても人生は前に進まない。そうやって誰かを攻撃するエネルギーを、自分が大事に思う人のための費やした方がいいと思うんですよね。 ━━不安や怒りをポジティヴな力に変えていく? そうですね。自分の周りの人のことをもっと理解してあげられる。肯定してあげられるような世の中になってほしいという願いを、この映画に込めたつもりです。

映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』本予告 9月4日全国公開

Text:村尾泰郎

PROFILE

宇宙でいちばんあかるい屋根

藤井道人

1986年8月14日 生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。 大学卒業後、10年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。 伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(14)でデビュー。以降『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)など精力的に作品を発表。19年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。21年には『ヤクザと家族 The Family』の公開が控える。

宇宙でいちばんあかるい屋根

宇宙でいちばんあかるい屋根

9月4日(金) 全国公開

清原果耶 伊藤健太郎 水野美紀 山中 崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆 桃井かおり 主題歌:清原果耶「今とあの頃の僕ら」(カラフルレコーズ/ビクター) 作詞・作曲・プロデュース:Cocco 脚本・監督:藤井道人 原作:野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊) 配給:KADOKAWA © 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会 詳細はこちら

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Sparksインタビュー|ロン・メイルに訊く、『A Steady Drip Drip Drip』で体現したポップ・ミュージックの可能性

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『A Steady Drip Drip Drip』で体現した ポップ・ミュージックの可能性

来年で活動50周年を迎えるLA出身の兄弟バンド、スパークス(Sparks)。フランスの鬼才、レオス・カラックス監督の新作映画でサントラを担当したり、エドガー・ライト監督がスパークスのドキュメンタリーを制作中だったりと何かと注目を集めるなかで、新作『A Steady Drip Drip Drip』が完成した。 ロック、エレクトロ、クラシックなど、多彩な音楽性を独自のポップ・センスでブレンドしたサウンドは、まさにワン&オンリー。独創的でいながら、それでいて優雅に洗練されたスパークス美学の結晶ともいえる新作について、兄のロン・メイルに話を訊いた。

Interview:ロン・メイル(Sparks)

━━前作『Hippopotamus』(2017年)は完成したばかりのラッセル(弟のラッセル・メイル)の自宅スタジオで制作したそうですが、今回もラッセルのスタジオで? そうだね。アルバムの半分の曲は私が自宅で書いて、残り半分はラッセルのスタジオで白紙の状態から二人で書いた。あれこれ試しながらメロディーを探っていくんだ。ラッセルのスタジオだったら時間やお金のことを気にしなくてもいいからね。エンジニア的な作業はすべてラッセルがやってくれるし。 ━━音は緻密に作り込まれていますが、滑らかに仕上げられていてメロディーを際立たせていますね。 緻密に作り上げた感がしないように聴こえることが大事なんだ。裏では手の込んだことをやっていても、結果としてできたものは技巧の跡を見せない。自然発生的に聴こえるサウンドでなければいけないんだ。だから、いろいろ配慮しながらひとつひとつのサウンドを作っている。パズルを完成させるようなところもあって楽しいよ。 ━━スパークスは歌詞もユニークですよね。“iPhone”“Lawnmowe”(芝刈り機)みたいに物を題材にした曲や、“Stravinsky's Only Hit”(ストラヴィンスキー唯一のヒット曲)なんていうのもある。 ほとんどの曲で歌詞は曲ができた後で書くけど、歌詞に時間と労力をかなり費やすのは、歌詞が音楽の質に合っていることが大事だと思っているからだ。ポップ・ミュージックで残念でならないのは、音楽面にはすごく力を入れているのに歌詞が平凡だということ。私たちはそれだけは避けたいと思っている。今回は歌詞に初めて下品な言葉を使ったんだ。これまでは避けてきたんだけど。

Sparks - Lawnmower

Stravinsky's Only Hit

━━そういえば、スパークスにしては珍しく「Fuck」のような放送禁止用語が登場しますね。 そういう言葉を使うのはスパークスらしくないと思っていたんだ。でも今作では、数曲で絶対に必要だと感じた。例えば“Please Don’t Fuck Up My World”。これを別の表現で言い換えるのは難しい。“iPhone”には《put your fucking iPhone down, listen to me(お前のクソiPhoneを置いて俺の話を聞け)》という歌詞があるんだけど、あの曲では歌詞的な表現よりも会話風に描くことが大事だった。曲を作っている時は自己分析し過ぎないようにしているけれど、こういう言葉を使用することに関しては二人でじっくり考えたよ。 ━━“Please Don’t Fuck Up My World”では、子供達のコーラスが美しい歌声で「Fuck」と歌い上げています。 その対比が気に入ったんだ。スラッシュ・メタルのようなサウンドではなく、ある意味、希望に満ちていて壮大な曲だからね。もし、全編で絶叫しているような曲だったら、わざわざあの言葉を使わなかっただろう。この曲調で使うからこそ奇妙な味わいが出るし、子供の合唱団が歌うことで違う意味合いも出てくるところが面白いんだ。

Sparks - Please Don't Fuck Up My World

━━組み合わせの面白さでいえば、“One for the Ages”でクラシック風の壮大なサウンドとシンセ・ポップが融合しているのもユニークです。 長く活動してきたことの利点のひとつは、いろんな音楽的要素を自在に取り入れることができること。大昔になるけど、ジョルジオ・モロダーと作った『No.1 In Heaven』はエレクトロニックなアルバムだった。また最近では、映画音楽にも携わったことで壮大なサウンドに惹かれる面もある。その二つの世界を融合させることで、単なるダンス・ソングで終わらせない壮大さを曲に持たせることができると思ったんだ。

No.1 In Heaven

━━グラム・ロックだったり、テクノだったり、クラシックだったり。これまでスパークスは、いろんなサウンドを取り入れて独自の世界を作り上げてきましたが、今回のアルバムでは、これまでやってきた音楽性が詰め込まれているような気がしました。 私たちは可能な限り、同じような作品を作らないようにしてきた。それでも、自分たちが手がける音楽には一貫した感性があるんだ。過去には前のサウンドから完全に決別した作品もあった。例えばドラムとギターを使わずに作った『Lil, Beethoven』とか、エレクトロニックに徹した『No.1 In Heaven』のようにね。今回は『Hippopotamus』でやった「歌モノへの回帰」に手応えを感じて、それをさらに追求してみた。曲単位でじっくり取り組んだから『Hippopotamus』よりさらに深みが増しているんじゃないかな。ポップ・ミュージックには、曲の長さやメロディーの反復など制約が多い。その可能性をどこまで押し広げられるかを、このアルバムで追求してみたんだ。

Lil' Beethoven (Deluxe Edition)

Hippopotamus

━━活動50年を迎えるベテラン・バンドなのに、いつも新作には新鮮な驚きがある。そんなスパークスのマジックが、このアルバムからも感じられます。これまでの50年を振り返って、どんな感想を持たれますか? 今もこうして新作のインタビューを受けているなんて信じられないよ(笑)。ファースト・アルバムを出した時は、このまま解散してもいい、と思えるくらい嬉しかった。長年応援し続けてくれる人たちもいれば、私たちの音楽に魅力を感じてくれる若い人たちや、私たちのことを新人バンドだと思う人たちもいる。長年応援し続けてくれる人たちにはもちろん感謝しているけど、私たちのことをアルバム1、2枚くらいしか出していないような新人バンドと同じように感じて気に入ってくれる人たちがいることにすごく刺激を受けるし、手応えを感じているんだ。

Sparks デビューから(ほぼ)半世紀。世界各地でカルト的人気を集める、完全無敵のポップ・デュオ、スパークス。ロンとラッセルのメイル兄弟からなるこのデュオは、1971年のアルバム・デビュー以来、グラムからパワー・ポップ、エレクトロにダンス・ポップ、さらにはチェンバー・ポップまで、時代時代のポップ・ミュージックを己の中に取り込みながら、一貫してスパークスだと分かるような音世界を創り上げている。 2018年は兄弟自らキュレートしたベスト・アルバムと、通算16作目となる『GRATUITOUS SAX & SENSELESS VIOLINS(邦題:官能の饗宴)』の発売25周年記念デラックス・エディションをリリースしていたスパークスだが、2020年、2017年の『HIPPOPOTAMUS』以来約3年ぶりとなる通算24作目のアルバムをリリースすることを発表。昨年バンドのツイッターに”ニュー・アルバムにとりかかっている”とのコメントを投稿し、ファンの期待を集めている。 詳細はこちら

RELEASE INFORMATION

Steady, Drip, Drip, Drip

Sparks 2020.07.03(金) 詳細はこちら

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Michael Kaneko × あいみょん 対談|お互いのニューアルバムに垣間見た、シンガーソングライターとしての自信とプライド

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Michael Kaneko × あいみょん

Michael Kanekoとあいみょんの共通点は、自身がシンガーソングライターであることに自覚的なところだ。 Michael Kanekoは基本的にセルフプロデュースで、楽器演奏からプログラミングまでを一人で行うのに対して、あいみょんはMichael Kanekoと同じorigami PRODUCTIONS所属の関口シンゴ(Ovall)をはじめ、田中ユウスケやトオミヨウといったプロデューサーとともに楽曲を仕上げていて、制作の過程は大きく異なる。 しかし、どちらも「弾き語り」を自分の原点とし、バンドとともにツアーを行うことが増えた今でも、ライブの中に弾き語りパートを挟むなど、強いこだわりを見せている。Michael Kanekoの新作『ESTERO』と、あいみょんの新作『おいしいパスタがあると聞いて』は、それぞれのカラーを明確に反映させつつ、同じ時代を生きるシンガーソングライターとしての矜持を強く感じさせるもの。今回はそれぞれの信念について、2人に語り合ってもらった。

Interview: Michael Kaneko × あいみょん

Michael Kaneko × あいみょん

──Michael Kanekoさんはあいみょんさんのファーストアルバム『青春のエキサイトメント』に収録されている“RING DING”にサウンドプロデュースとアレンジで参加されていますね。 あいみょん 制作がとても楽しかったことを覚えています。キャラクターとして、マイキーさん(Michael Kanekoの愛称)ってすごく印象に残る方じゃないですか? とりあえず、英語が話せるから、とにかく発音を教えてもらいました。「マクドナルドって言って」とか(笑)。 Michael Kaneko 英語の先生みたいになってました(笑)。 あいみょん 逆に「漢字は難しい」って言ってましたよね? すごく覚えてるのが、“RING DING”は元のタイトルが「元気が出る歌」だったんですけど、レコーディングのときに譜面を見たら「THE GENKI SONG」って書いてあって、それが忘れられないです(笑)。

あいみょん - Ring Ding

──Michael Kanekoさんはあいみょんさんに対してどんな印象を持ちましたか? Michael Kaneko まず歌がとても上手いなって思っていました。レコーディングのときって、僕の場合だとパート毎に分割して歌って、気になるなって思ったらパンチインしたりするんですけど、あいみょんさんは一曲通してガーッと歌って、それを5テイクくらいやって終わり。それがとても印象的で。 あいみょん それは未だに変わらなくて、何ならもっと減りましたね。今回のアルバムだと、3テイクだけの曲もあります。 Michael Kaneko その中から選ぶの? あいみょん 選ぶし、ほとんど直してないのもあります。 Michael Kaneko すごい……。でも、昔のアーティストはパンチインとかできなかったわけですもんね。最近、歌録りは家でやっちゃうんですよ。その方がリラックスできるし、時間もかけられるので。 ──“RING DING”のアレンジに関しては、どんなやりとりがあったんですか? あいみょん 割とお任せでしたよね? Michael Kaneko そうですね。「青春ロック」みたいなイメージだけあって。 あいみょん 直接お会いしたのはレコーディングが初めてで、「お若いんですね」って……私の方が若いですけど(笑)。 Michael Kaneko 〈origami PRODUCTIONS(以下、origami)〉にいる他の人は結構上ですもんね。 ──あいみょん作品ではお馴染みの関口シンゴさんは、もう少し歳上ですよね。 あいみょん 関口さんとは私が19歳の頃からご一緒していますね。インディーズの頃からなので、〈origami〉にはずっとお世話になっております。今年の外出自粛期間が明けて、一発目のレコーディングも〈origami〉のスタジオで、「ただいま!」って感じでした(笑)。 ━━最初にあいみょんさんから送られてくるのは弾き語りのデモなんですか? Michael Kaneko そうです。曲自体がよかったので、アレンジしてても楽しかったですね。曲が自分にガシッと来ないと、アレンジが難しいこともあるんですけど、“RING DING”はすぐイメージが見えました。 あいみょん ファンのみんなもすごく大好きな曲です。 Michael Kaneko ライブであの曲を演奏してるのを初めて観たときに、お客さんがとても盛り上がっていて、すごく感動しました。 あいみょん アップテンポの楽曲は他にもあるんですけど、ああいうポップで、青春感のある曲って、当時は他になかったんです。なので、自分にとって新しい音楽のジャンルを開いてくれたというか、「ありがとうございます!」って感じでした。 Michael Kaneko 僕の方こそ、資料に「あいみょんをプロデュース」って書けるから、ホントにありがとうございます(笑)。

Michael Kaneko × あいみょん

──Michael Kanekoさんはプロデュースの仕事もやりつつ、もちろん元々はシンガーソングライターなわけで、あいみょんさんから見たシンガーソングライターとしてのMichael Kanekoさんの魅力をお伺いしたいです。 あいみょん やっぱり、シンプルに歌声がすごくないですか? この歌声は自分には絶対出せないなと思います。私は声色を使い分けたりするタイプなんですけど、マイキーさんはそういうタイプではなくて、「ずっとマイキー」みたいな(笑)。歌声が柔らかいですよね。もしかしたら、英語が日本語より柔らかい発音なので、そう聴こえるのかもしれませんが、とにかく自分にはない歌い方だし、情緒の出し方をしてるなって思います。 Michael Kaneko 何を歌っても自分っぽくなっちゃうっていうのはあって、日本語の曲をカバーしても、「マイキーだね」とは言われます。 あいみょん 今回のカバーアルバム(限定盤に付属されているカバーEP『Sounds From The Den EP vol.2:Acoustic Covers』)を聴いても、やっぱりマイキーですもん(笑)。生まれ持った才能だと思うし、いいなと思いますよ。 ━━でも、Michael Kanekoさんがちゃんと歌い始めたのは大学生になってからなんですよね? Michael Kaneko もともとバンドでギターだけをやっていて、アコギで曲書いて歌おうかなって思ったのは大学に入ってからです。19歳の時のデモを聴くと、すごく恥ずかしいんですよ。今の歌い方はブレッシーなんですけど……さらにブレッシーで(笑)。 あいみょん あははははは。でも、みんなそうですよね。私の昔のデモもめっちゃひどいですよ。iPhoneで録ってたんですけど、気合い入れて近づき過ぎて音割れてるし、歌い方も元気過ぎて……、恥ずかしいですよね。 ──お二人の共通点はシンガーソングライターであり、「弾き語り」をベースにしていることだと思うんですけど、改めて、弾き語りの魅力をどう感じていますか? あいみょん 私は原点に弾き語りがあって、歌詞も、自分の歌声も、一番素直に届くものだと思ってます。最終的に自分がバンドを背負えなくなっても、これさえあればできるんだぞっていう、意思表示にも近いと思います。 Michael Kaneko 僕も一緒です。本当に弾き語りが原点だし、そこがベースです。でも、フェスとかに出演すると、周りがみんなバンドで、僕だけ弾き語りになったりするんですよ。 あいみょん わかるー! Michael Kaneko 昔はそれがすごく寂しくて、物足りないというか、盛り上がらないなって思っていました。けど、最近はそんな言い訳はせずに、バンドに負けないくらいのパフォーマンスを残そうって考えるようになりましたね。 あいみょん 私もフェスだと一人だけ弾き語りで、すごく追いやられたようなステージだったりして(笑)。当時はアコギを持って歌うことがコンプレックスでもありましたが、だからこそ、もっと磨こうとも思えました。 ──ある種の反発心があったと。 あいみょん ありましたね。今よりMCも尖ってました。フェスで人の気を引きたくて、大声出したりもしてましたし……、いろいろ鍛えられましたね。 Michael Kaneko 僕も別のバンドがとても盛り上がってる中で、セットリストにわざとバラードをたくさん入れて、「こっちは聴かせてやる」とか思ってましたね。 あいみょん バンドを背負ってる今でも当時の悔しさみたいなのって残ってますか? Michael Kaneko 今はもうないかなあ。ありますか? あいみょん 私はいまだにちょこっとあるんですよね。今は自分もバンドを背負ってツアーを回ってるんですけど、やっぱりシンガーソングライターとして見てほしい気持ちもあって。「弾き語りでも私は強いんやぞ」って、改めて見せたくなるんですよね。 Michael Kaneko それはすごくわかる。「俺はギター1本でもできるぞ」みたいな気持ちっていうか(笑)。 あいみょん だから、私バンドのツアーでも絶対に弾き語りパートを設けていて。 Michael Kaneko 自分もワンマンのときは絶対入れます。 あいみょん シンガーソングライターとして、アコギ一本でやっていたことを忘れたくない気持ちはありますよね。 ──あいみょんさんは初めての日本武道館でのワンマンを弾き語りでやってるくらいですからね。 Michael Kaneko あれはめちゃくちゃかっこいいなって思っていました。あんなことやる人他にいないじゃないですか? ──あれも明確な意思表示でしたよね。 あいみょん やっぱり、シンガーソングライターであることを忘れたくないんです。

Michael Kaneko × あいみょん

──同じシンガーソングライターでも、曲の作り方はそれぞれですよね。Michael Kanekoさんは基本セルフプロデュースで、アレンジから楽器演奏まで一人でやるのに対して、あいみょんさんは分業制というか。 あいみょん 一人でやるってすごいですよね。私は作詞作曲にすべてを注ぐタイプです。あとはそれこそマイキーさんだったり、関口さんだったり、自分にない知識や才能を持ってる方が近くにいらっしゃるので、その人たちの力を借りて、いい音楽を一緒に残すっていう方法が自分には合っていました。でも、一人で全部できるのは本当にすごいと思います。どうやってやってるんですか? Michael Kaneko 部屋に籠ってやってます(笑)。でも今回一人でやった理由は、一人でやらないと進まないから、録音とかアレンジも勉強したって感じなんです。今後は海外のアーティストみたいに、自分でもプロデュースするけど、ちゃんとしたプロデューサーにも別で入ってもらって、アレンジを一緒にやったりする形でもやってみたいなと思っています。 ──関口シンゴさんをはじめ、〈origami〉の人たちは基本セルフプロデュースですよね。 Michael Kaneko その影響はすごくありますね。〈origami〉に入って、音楽で食べていくには、シンガーソングライターとしての活動以外のこともできた方がいいよっていうのは言われました。 あいみょん いい環境ですよね。ある意味、スパルタな感じもありつつ、実際、周りのみなさんのご活躍もすごいですし。 Michael Kaneko セッキー(関口シンゴ)さんとかすごく真面目じゃないですか? だから、僕ももっとやらないとっていう気持ちになるんですよ。 あいみょん いいことですよね。向上し合ってるというか。やっぱり、同じシンガーソングライターでも作り方はそれぞれ違いますね。 ──あいみょんさんはアレンジや演奏を他の人にお願いすることで、自分の中のイメージとのずれを感じたりすることはないですか? あいみょん そういう場合はもちろん話し合いますし、でもそれこそ〈origami〉のチームもそうですし、田中(ユウスケ)さんもそうですけど、長く一緒にやらせてもらってるので、私の癖もわかってるし、言わなくても伝わるようになっていたり、関係性ができています。 ──さきほども言っていたように、関口さんとはインディーズ時代からですもんね。いろんなアレンジャーさんがいる中で、関口さんはどんな存在だと言えますか? あいみょん 関口さんはとりあえず優しいです。〈origami〉のあの空間って、本当に居心地がいいんです。もちろん、切羽詰まるときもありますけど、でも、みなさんニコニコしてくれていて、「すごくいいのができたね」って言ってくれるあの感じって、私にとってはすごく大事。ピリついた中ではやりたくなくて、関口さんと一緒にやっていてピリついたことは全くないですね。そういう空間でできることが第一で、〈origami〉の空間に甘えているのかもしれないけど……、一緒にやるチームって大事じゃないですか? Michael Kaneko とても大事ですね。ケミストリーが重要だから、音楽のことだけじゃなくて、普通に一緒にいるときに楽しくいれるかとか、そういうこともすごく大事なんですよ。

Michael Kaneko × あいみょん

──Michael Kanekoさんの新作『ESTERO』について、まずはあいみょんさんに聴いた感想をお伺いしたいです。 あいみょん 特に好きな曲が2曲あります。まず一曲目の“Breakdown feat.Daichi Yamamoto”が最高。あと“Voices”もすごく好きでした。全体的にはアップテンポな曲は少なめで、わりと柔らかい楽曲が多い印象で、それがマイキーさんの今のモードなのかなって思いました。私のマイキーさんのイメージって、一曲目みたいな、ちょっとノリノリな感じなんです。前作の"Lost In This City"もそうだったので、この感じはやっぱり好きですね。 Michael Kaneko “Voices”が好きって言ってくれたのは嬉しいです。僕の中で、一番日本っぽさのある曲だと勝手に思っていて。特別意識したわけじゃないんですけど、書いた後に、日本っぽさがあるメロディーだなと思っていました。

Michael Kaneko - ESTERO

──Michael Kanekoさんの影響源としては、ジョン・メイヤー(John Mayer)だったり、海外のアーティストの名前が挙がることが多いと思うんですけど、日本のアーティストで影響を受けた人とかっていますか? Michael Kaneko どうだろう……、シンガーソングライターでいうと、ハナレグミさんや、大橋トリオさんは結構聴いているので、無意識に影響されている可能性はありますね。ただ、ジャーニー(Journey)とかカーペンターズ(Carpenters)って、洋楽だけど日本っぽさがあるじゃないですか? “Voices”もそういったイメージなんです。 ──逆に、あいみょんさんの影響源としては日本人アーティストの名前が挙がることが多いと思うんですけど、海外のアーティストからの影響というとどうですか? あいみょん 一番聴いたのはマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)……マイキーなんですよ(笑)。 Michael Kaneko 今回のジャケット、ちょっとマイケル・ジャクソン感あるでしょ? あいみょん 『This Is It』っぽい! Michael Kaneko そうそう、80年代感あるよね。 あいみょん マイケル・ジャクソンがポール・マッカートニー(Paul McCartney)と一緒に歌ってる”Say Say Say”とか”The Girl Is Mine”でポールのことを知って、そこからビートルズ(The Beatles)を聴いて。その後にハマったのはジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)。少しテイストが近いですよね。 Michael Kaneko ウェストコーストサウンドだからね。 あいみょん あとはボブ・ディラン(Bob Dylan)とか。やっぱり、アコギと男性の声の組み合わせが邦楽でも洋楽でも関係なく好きなんですよ。 ──今挙がった名前は、Michael Kanekoさんにとっても大事な名前ばかりですよね。 Michael Kaneko そうですね。でも、ジャクソン・ブラウンはそこまでメジャーなアーティストじゃなくないですか? あいみょん ジャクソン・ブラウンは私が好きな浜田省吾さんの曲の歌詞に出てくるアーティストで、”Late For The Sky”を初めて聴いて、なんていい曲なんだって思ったんです。 ──お二人が感覚を共有する部分が垣間見えた気もします。マイキーさんには『ESTERO』というタイトルの由来もお伺いしたいです。 Michael Kaneko 20歳くらいのときに、交換留学でカリフォルニアに帰ったことがあるんです。当時は周りが就活を始めていて、でも自分は将来何になりたいのかがよくわからなくて。そんな気持ちのままアメリカに行ったんですけど、むこうで仲良くなった友達が遊びで音楽をやっていたんです。 しかも、ルームシェアをしている一軒家の中にたくさん楽器が置いてある部屋があって、そこでほぼ毎日セッションをしていたんですよね。そのゆるい感じがすごく楽しくて、やっぱり音楽をやりたいなって思い、日本に帰っても音楽を頑張ろうって決めたんです。その一軒家がカリフォルニアのサンタバーバラにある「ESTERO ROAD」の道沿いにあったので、そこからタイトルにしました。ファーストアルバムなので、「自分の原点」みたいな意味合いですね。

Michael Kaneko - Tides

──あいみょんさんの新作『おいしいパスタがあると聞いて』に関しても、まずはマイキーさんから感想をお願いできますか? Michael Kaneko 全曲シングルみたいな、いい曲ばかりですね。一曲目の"黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を"からかっこよくて、ちょっとマンドリンが入っていたり、いわゆるロックでもないし、ジャンル的にも面白いなと思いました。あと全体的に、洋楽っぽい音楽をやってる自分からしたら、絶対書けないメロディーだなと。 あいみょん それはきっとお互い、ないものねだりしちゃうところかもしれないですね。私は絶対にマイキーさんの作るメロディーは出てこないです。「こうやって動くの?」みたいなのあるじゃないですか? Michael Kaneko そうそう。コード進行も「こういくんだ」とか、全曲通してそんな感じでした。あと、やっぱり弾き語りを大事にしているからか、きっとアレンジを全部抜いても成り立つ曲だなと思いました。今ってトラックメイカーが作るトラックがあって、その上にメロディーを書くこともわりと一般的ですよね。それはそれでいいんですけど、この場合はメロディーがそこまで強くなくても、トラックで成立させる、みたいな曲もあって。でも、ギターで曲を書いていると、メロディーがよくないとそもそも曲として成り立たなくて、それは全曲通して感じたことです。 あいみょん 嬉しいです。私は歌詞とメロディーを同時進行で作るので、メロディーに上手く言葉が乗らないと気持ち悪くて。ある程度弾き語りの時点で曲を完成させるっていうのは、意識してるというよりも、そうじゃないと作れないんですよね。

あいみょん - おいしいパスタがあると聞いて

──Michael Kanekoさんが言った「全曲シングル」みたいなことは意識してますか? あいみょん いや、ないですないです。 Michael Kaneko 逆にここからどうやってシングルを選ぶのかなって。セッキーさんがプロデュースした曲も、全然シングルっぽいなって思いました。 あいみょん “裸の心”は初めてストックの中から選んだシングルだったんですけど、普段のシングルは書き下ろすことが多いんですよね。今回のアルバムの曲もストックの中から選んでいて、とにかく自分が今一番いいと思う曲を選んだだけなんです。2~3年前の曲でも、今聴いて一番いいと思える、届けたいと思える楽曲を選んでいるので、今思う最強メンツ、神メンツを集めてる、みたいな感覚ではあります。 ──現時点でストックって何曲くらいあるんですか? あいみょん 400曲くらいです。 Michael Kaneko まだ出してない曲で? すごいな。 あいみょん でも、いつかはストックが尽きますし、全部が表に出るわけじゃないと思うので、ずっと作り続けてはいます。 Michael Kaneko エド・シーラン(Ed Sheeran)も同じ感じらしくて、めちゃくちゃ曲がたくさんあるらしいです。 あいみょん エド・シーラン、同世代なんですよね。 Michael Kaneko タメだと思う。 あいみょん エド・シーランとタメ、なんかすごい(笑)。

Michael Kaneko × あいみょん

──さきほどMichael Kanekoさんが挙げた“黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を”は《余裕のある生き方がしたい でも鐘のなる方へは行かないぞ〉や《もっと刺激を もっと混乱を もっと人生を〉といった歌詞も印象的で、意思表示的な一曲目だなと思いました。 あいみょん 2~3年前にできていた曲なんですけど、今の自分が言いたいことを昔の自分が言ってくれてるなって思って、絶対一曲目にしたいと思いました。《鐘のなる方へは行かないぞ》っていうのは、煌びやかな方、お金がある方へは行かないぞ、だまされたくない、みたいな意味ですね。アーティストとして活動していて、キラキラした世界だなって思うけど、どこかに落とし穴がある気がしていて。 もう少し自分を不幸にししなければというか、自分にちょっとしたトラブルが起これば、10代のデビュー前の頃みたいに、「まだまだやってやるぞ!」って、燃え上がれる気がするんです。捻くれてるとも思うけど、それを3年前の自分が言ってくれてたので、その気持ちは大事にしたいなって思いました。「あいみょんのこと知らない人なんていないよ」みたいに言われたりもして、嬉しいけど、その状況に甘えてはいけないので、常に「こんなのは今だけ」って思いながら、落とし穴に落ちないように進んでいかなきゃなっていうのは思ってますね。 ──Michael Kanekoさんも前作からの3年で活動の幅がグッと広がったと思うんですけど、そんな状況に対してどう向き合っていらっしゃいますか? Michael Kaneko めちゃくちゃハングリーですよ。自分の音楽も、仕事としてやる音楽も、できるだけのことをやろうと思ってます。 あいみょん 満たされた瞬間とかってありますか? Michael Kaneko ないですね。ありますか? あいみょん ないですね。ゴールがない世界じゃないですか? たまに「燃え尽きた」みたいなことを言う人もいますけど、その感覚はまだわからないです。 Michael Kaneko 今のゴールってありますか? 「こうなりたい」とか。 あいみょん 「家族に自慢されたい」とか「甥っ子が喜んでくれるようなことをしたい」とか、結構身近なところですね。「天下取るぜ!」みたいな大それた感じじゃなくて、家族とか身近な人が喜んでくれたらそれが嬉しい。さっき、マイキーさんが「あいみょんプロデュースって書ける」って言ってくれましたけど、そうやって自分が誰かの力になれたり、身近な人がそういうことを言ってくれるのが嬉しくて。その積み重ねの先にゴールがあるのか……、それもわからないですけどね。マイキーさんはゴールありますか? Michael Kaneko ないかなあ。きっとそのゴールを達成しても、またすぐ次の目標がきて、きっと納得しないんでしょうね。 ──Michael Kanekoさんとしては3年ぶりの新作が遂に完成したわけですけど、それでもできてしまえばすぐにまた次へ向かうというか。 Michael Kaneko そうですね。もう「次はこういう感じでやりたいな」とか考えていますね。 あいみょん 作品を作り終わったらもう次のこと考えちゃいますよね。できちゃったら、この子は旅立つだけなんで、あとはこの子の実力と、スタッフさん次第(笑)。スタッフさんが日々やってくれていることに対して、「ありがとうございます!」って思いながら、私はもっといいものを作るための作業に入る。きっとその繰り返しなんです。

Michael Kaneko × あいみょん

Text by 金子厚武 Photo by Asami Nobuoka

Michael Kaneko × あいみょん

Michael Kaneko 湘南生まれ、南カリフォルニア育ちの日本人シンガーソングライター。 2015年、TOYOTAのCMにシンガーとして起用されYouTubeで740万回以上の再生回数を記録。 その後 Panasonic、Nissan、Pioneer、SHARP、BACARDIなどのCMに起用され問い合わせが殺到。 自宅でレコーディングし、パソコンで焼いて販売していたデモCD『Sounds From The Den EP』は1日50枚ものバックオーダーが来るようになり、パソコンはクラッシュ。累計2,000枚を販売し、iTunesシンガーソングライターチャートで1位を獲得。 CDデビュー前にもかかわらず、FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、朝霧JAM、GREENROOM FESTIVAL など数々のフェスに出演。 また、タワーレコード“No Music, No Life?”キャンペーンに大抜擢。CDが店頭にないまま大型のポスターに登場するという異例の盛り上がりを見せる。 さらにはJ-WAVEのジングルを歌い、デモCD収録の楽曲が「テラスハウス」の挿入歌として使用される。 プロデュース、コーラス、ギター、楽曲提供などで さかいゆう、あいみょん、SING LIKE TALKING、藤原さくら、Rude-α、足立佳奈、majikoなどとコラボ。 また、映画「サヨナラまでの30分」「ママレード・ボーイ」、フジテレビ系ドラマ「僕たちがやりました」、アニメ「メガロボクス」などの音楽も手がける。 そして、その声はついに海外へ。覆面ユニットAmPm (アムパム) にボーカルで参加した楽曲がSpotifyで3,900万回を超える再生回数を記録 (しかも再生は90%が海外!)。インドネシアのフェスでは1万人規模のオーディエンスが大合唱。 フェス、ネット、CM、ラジオ、TVドラマ、全てを累計すると5,000万人に声を届けることに成功。 そんな中、2017年10月にデビューEP『Westbound EP』をリリース。 先行シングル「Lost In This City」は全国21のラジオ局でパワープレイを獲得。 J-WAVE「Spotify TOKYO VAGABOND」のマンスリーパーソナリティやFMヨコハマ「FUTURESCAPE」に“小山薫堂氏の今一番会いたいアーティスト”として出演依頼を受けるなど各局の番組に登場。 また、スペシャルゲストに藤原さくらを迎えたLINE LIVEの視聴者数は約26万人を突破。 テレビ朝日系「関ジャム 完全燃SHOW」、西野亮廣(キングコング)がMCを務めるフジテレビ「ハミダシター」など、数え切れないほどのメディア出演を果たす。 その話題は日本にとどまらず、Spotifyではアジアやヨーロッパを中心に15の国と地域の“New Music Friday”プレイリストにもピックアップされ、各国のバイラルチャートにもランクイン。さらにハリウッド女優クロエ・グレース・モレッツがお気に入りとしてSNSに投稿、瞬く間に世界中へ拡散される。 ウィスパーながらも芯のあるシルキーヴォイスが話題となり、活躍の場を世界規模で広げている。

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Michael Kaneko × あいみょん

あいみょん 兵庫県西宮市出身シンガーソングライター。 16年11月にシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。17年5月に2ndシングル「愛を伝えたいだとか」、8月に3rdシングル「君はロックを聴かない」 を発表し、9月にリリースした1stフルアルバム「青春のエキサイトメント」は現在もロングセールスを記録中。6月には初の海外公演を台北Legacyにて行いSOLDOUT。11月からは札幌を皮切りに全国ツアー「AIMYON TOUR 2018 -HONEY LADY BABY-」を開催、即日ソールドアウト。2018年紅白歌合戦への出演も果たした。 2019年2月には2ndアルバム「瞬間的シックスセンス」を発売。同月には初となる武道館公演を開催。5月からは対バンツアー「AIMYON vs TOUR 2019 “ラブ・コール”」、10月からは自身最大規模のワンマンツアー「AIMYON TOUR 2019 -SIXTH SENSE STORY-」を開催。2019年は「Billboard 2019年年間TOP ARTISTS」を獲得し「オリコン年間ストリーミングランキング 2019」でも1位を記録し”2019年 1番聴かれたアーティスト”となった。 2020年、日本テレビ「news zero」の1月からの新テーマ曲して書き下ろした楽曲、「さよならの今日に」を2月14日に配信限定でリリース、そして6月17日にはTBS系 火曜ドラマ「私の家政夫ナギサさん」主題歌10thシングル「裸の心」をリリース、9月9日(水)には3rdアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」の発売も決定。

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RELEASE INFORMATION

Michael Kaneko × あいみょん

ESTERO(エステロ)

2020.08.19(水) Michael Kaneko origami PRODUCTIONS 通常盤:¥2,200(+tax) 限定盤:¥3,000(+tax) 購入・ダウンロード・ストリーミングはこちら

Michael Kaneko × あいみょん

おいしいパスタがあると聞いて

2020.09.09(水) あいみょん 製品番号 ワーナーミュージック・ジャパン 通常盤:¥2,800(+tax) 初回限定盤:¥4,000(+tax) 購入・ダウンロード・ストリーミングはこちら

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ライブレポート:LIVEWIRE PUNPEE<Sofa Kingdomcome>|映画作品のような夢見心地の時間

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PUNPEE

PUNPEEがスペースシャワーがプロデュースするライブ配信サービスLIVEWIREとタッグを組んで実現した配信ライブ<Sofa Kingdomcome>。7月1日に発売されたEP『The Sofakingdom』のリリースを記念して敢行された本ライブは、本来予定していた全国5都市を周遊する6公演の単独Zeppツアーの延期に伴い発表された。未曾有の事態の中、誰もが待ち望んでいたPUNPEE自身初の生配信ライブは、予想通りにヘッズの度肝を抜く演出であふれていた。Qeticではこの度、本公演のライブレポートを実施。彼をよく知るヘッズのひとりであるみやーんZZ氏が見所を余すところなく解説している。 なお、本公演は9月20日(日)23:59まで見逃し配信中だ。すでに視聴した方も、まだ見ていないという方も、このライブレポートを読んで気持ちを昂ぶらせながら、ぜひ鑑賞してみてほしい。

LIVE REPORT:LIVEWIRE PUNPEE<Sofa Kingdomcome> Text by みやーんZZ

PUNPEE

これまでもステージ上に巨大LEDセットを組むなど映像演出にただならぬこだわりを見せていたPUNPEE。今回も「配信限定」という条件を最大限に考慮した演出をしており非常に驚かされました。 冒頭、渋谷・マンハッタンレコード前に自転車で登場したPUNPEE。“P.U.N.P. (Communication)”“Renaissance”を歌いながら渋谷の街を練り歩き、ライブ会場であるWWW Xに到着するまでの約7分間も生中継。ワンカット長回しの映画を見せられているようなライブ感。途中登場するカメオ出演の方々や渋谷の街にたまたま居合わせた人々の生の反応も見せつつ、そもそもライブ会場も事前に明かされていないため「PUNPEE、どこに行っちゃうんだろう?」と見ているこちらをドキドキさせます。

PUNPEE

WWW X内はメインとなるステージの他にEP『The Sofakingdom』のジャケットを模したソファーのセットを設置。この2つを行き来しながらパフォーマンスは進みます。“夢追人”ではDJブースの後ろにMVのスタジアム映像を流しつつ、途中で何もなかった空中にバーチャルなモニターを出現させ、KREVAを映し出すことで「これはただ単に壁に映像を投影しているだけではないらしい」ということを匂わせます。続くPUNPEEのフリースタイルパートではスクラッチするDJ ZAIに電撃のエフェクト。“Scenario (Film)”を挟んで“Buddy”ではARで描かれたペラペラのBIMが登場。さらに途中でBIM本人が登場し、バーチャルBIMを蹴飛ばしてマイクジャックするなど楽しい演出を見せてくれます。

PUNPEE
PUNPEE
PUNPEE

BIM退場後、“夜を使いはたして”を経て“GIZMO(Future Foundation)”へ。一旦暗転した後、照明がつくとARで描かれた観客が出現。さらに宙を舞う大量の小物たち。ギズモ、レコード、VHS、ハンバーガー、空き缶、雑誌……。まさに《この世はVR》な世界観がステージ上に現出します。曲が進むにつれてジャングル、水中、宇宙へと場面は目まぐるしく切り替わり、盛り上がりはピークへ。 続く“タイムマシーンにのって”では大量の時計、そして黒猫が宙を舞い、フォルクスワーゲン型タイムマシーンが画面から飛び出しステージ上空を飛び回ります。さらにはARで描かれた板橋駅、時計台、噴水、ベンチ、MVに登場したPUNPEEの両親が出現。途中で雨が降り出し、時計台に雷が落ち……楽曲のMVで描かれていた世界がARで再現され、PUNPEEのライブパフォーマンスと融合していきます。この曲でライブは終了。約45分間のライブの後のエンドクレジット、一番最後の「Produced by PUNPEE」で思わず拍手してしまいました。

PUNPEE
PUNPEE
PUNPEE

チャリで登場して会場に着くまでの約7分間の生放送、リアルで現実的な映像から徐々にバーチャルな演出を増やしていき、“GIZMO(Future Foundation)”“タイムマシーンにのって”でバーチャル全乗せな世界観へと盛り上げていく見せ方はさながら映画のよう。また、ライブの端々に散りばめられた小物やカメオ出演なども、どれもPUNPEEにまつわるものばかりで発見するたびにクスリとしてしまいます。まさに映画の「イースターエッグ」のようで配信映像を何回も見返して探したくなります。 「コロナの自粛期間中、トラヴィス・スコット(Travis Scott)の『Fortnite』ライブに一番食らった」と話していたPUNPEEが「配信でしかできないライブ」を考え抜いて実現した今回の『Sofa Kingdomcome』、配信ライブのいろいろな可能性を見せつけれたような気がします。ただひとつ、残念なのはPUNPEEのラジオ『Sofa King Friday』がもうないこと。続いていたらライブ裏話が聞けたのに……。コメンタリー付きのメイキングが出たら速攻で課金してしまいそうです(笑)。PUNPEEとスタッフがこだわり抜いて作り上げたこの作品、ぜひチェックしてみてください!

PUNPEE
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Text by みやーんZZ Photo by 横山純

EVENT INFORMATION

LIVEWIRE

LIVEWIRE PUNPEE “Sofa Kingdomcome”

2020年9月20日(日)23:59まで見逃し配信中 チケット販売期間:2020年9月20日(日)21:00 JSTまで ¥2,500 ※チケットのご購入、ライブのご視聴は「LIVEWIRE」での配信となります。下記のチケット購入ボタンを選び、ご購入ください。 チケット購入はこちら

RELEASE INFORMATION

PUNPEE

The Sofakingdom

2020年7月1日(水) Format:DL/Streaming No.:SMMT-140 Label:SUMMIT, Inc. Track List: 1. The Sofakingdom VR Produced by PUNPEE 2. GIZMO(Future Foundation) Produced by PUNPEE 3. 夢追人 feat. KREVA Produced by Nottz 4. Operation : Doomsday Love Produced by PUNPEE 5. Wonder Wall feat. 5lack Produced by PUNPEE All Recorded by PUNPEE @板橋録音クラブ All Mixed by Shojiro Watanabe Mastered by Kevin Peterson Promotion:Ren “Reny” Hirabayashi(SUMMIT, Inc.) A&R:Takeya “takeyan” Masuda(SUMMIT, Inc.) 詳細はこちら

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MONO NO AWAREが劇場アニメ『海辺のエトランゼ』の主題歌“ゾッコン”に込めた疾走感と10年越しの歌詞

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MONO NO AWARE

「ああ僕は君にゾッコンだ! もう僕は君にロックオンだ!」 やや最初は気恥ずかしさを覚えながらも、曲が終わる頃には思わず口ずさんで走り出したくなる。次世代ロックバンド・MONO NO AWAREが約1年振りに贈る新曲“ゾッコン”(9月9日配信)はそんな曲であり、9月11日(金)に公開を迎えた劇場アニメ『海辺のエトランゼ』の主題歌だ。 『海辺のエトランゼ』の原作は「on BLUE」(祥伝社刊)で連載された紀伊カンナ作のBL漫画で、沖縄の離島を舞台に小説家の卵・橋本駿と海辺に佇む謎の高校生・知花実央との恋が展開する。“男子ふたりの恋”というテーマでありながら、それをフラットな視点と爽やかな画力で描いた同作は、BL漫画というジャンルを超えてファンを獲得した作品として知られている。

MONO NO AWARE "ゾッコン" Special Teaser 映画『海辺のエトランゼ』ver.

劇場アニメのプロデューサーが、たまたまCDショップでMONO NO AWAREの曲を聴いたことをきっかけに実現したこのコラボ。フィクション作品の主題歌を作る難しさや『ゾッコン』という曲の誕生秘話、そして今回のコラボを経て得たものなどについてメンバー全員に話を聞いた。

Interview:MONO NO AWARE

MONO NO AWARE
加藤成順、柳澤豊、玉置周啓、竹田綾子(L→R)

風を感じる物語。走り出したくなるような曲

━━まずは「海辺のエトランゼ」の主題歌を担当することになったきっかけを教えてください。 加藤成順(Gt. 以下、加藤) 作品プロデューサーがCDショップで僕らの曲を偶然聴いていただいたみたいで、その場でMONO NO AWAREのアルバムを買ってくれたって聞きました。 ━━そうだったんですね。主題歌のオファーがあってもちろん原作を読まれたと思うんですが、読んだ後の感想はどのようなものでしたか? 玉置周啓(Vo.&Gt. 以下、玉置) 僕は元から漫画が好きだったんですが、まず原作漫画をいただいて読んでみたら面白くて、いい話だし、絵もキレイだなと。 ━━元から漫画好きということですが、きっかけはありましたか? 玉置 母親が少女漫画好きだったんですよ。1980年代ぐらいの少女漫画が実家にいっぱいあって、それを読んで少年時代を過ごしていました。『海辺のエトランゼ』はこれまで触れてこなかったジャンルの作品でしたけど、土壌があったので違和感なく、当時を思い出しながら読みました。 ━━玉置さん以外の皆さんはどのような感想を持ちましたか? 柳澤豊(Dr. 以下、柳澤) 最初の印象は……とにかく爽やかだなと。あと、なぜかわからないけど、主人公のふたりの間にスッと風が流れているような風景を思い浮かべました。 玉置 それ、すごくわかるわ。風は感じた。 加藤 クサくないというか、当たり前に生活の中で好きになった感じが自然で読みやすかったし、爽やかな印象に繋がっていると思います。あと主題歌のお話をいただいた時に、監督から「MONO NO AWAREの音楽は、はっきり言い切らないところやなんとも言えないところをうまく歌詞に落とし込んでいて好き」と言ってくれていて。そういう部分で親近感みたいなものはあったし、安心した部分はありました。 ━━それを聞くとキャッチコピーの「心が、洗われるようなボーイズラブ。」の“ような”にも、その言い切らないという部分が表れているように感じますね。 玉置 うんうん、そうですね。それがさっき言った“風”みたいなものに繋がる。途中で修羅場はあっても、なぜか最後まで風が吹き続けて終わるような感じがこの作品にはあって。実際は爽やかなだけのハッピーな話ではないんだけど、読後感にはやっぱり爽やかさが残っていて、それが「心が、洗われるような」という言葉に表れているのかなと思います。「洗われる」とは断言できない感じはあるし、物語には人間の複雑さも内包されている。そういう部分も含めて、人間のキレイな部分だけではなく、複雑で、泥臭い部分も曲の中に書いてほしいということは言われました。 ━━これまでドキュメンタリー映画(『沈没家族 劇場版』)の主題歌(”A・I・A・O・U”)はありましたが、アニメの主題歌は初めて。どういった点が難しかったですか? 玉置 沖縄が舞台の作品でキレイな海の景色に合う音楽をと思って、原作のイメージを膨らませながら作った曲が最初にあったんです。ただ、それがしっとりしすぎていて、(制作側の)イメージに合わなかったようで。その時は……愕然としましたね。 全員 フフフフフ……。 玉置 ハナから違っていて、映画を観た時に「走り出したくなるような曲」みたいなイメージが求められていたんです。でも、最初に作った曲は映画全体に流れている透明感のようなものを、そのまま音楽で表現した曲だった。そこからまた作り直していったんですが、最初の曲に手応えがあったので、気持ちを新たに持っていくのが難しかったポイントかもしれません。 加藤 自分たちで「これ一番いいじゃん!」って一度は思ってしまったしね。あと作品の振り切ってないフワっとした部分と、曲の疾走感とのせめぎ合いというか。 玉置 曲としてはいいんだけど、映画として求めている部分は……というやり取りは初体験でした。創作物には原作者や監督のビジョンが明確にあるので、そことのすり合わせをするのがね。最終的に、疾走感はありつつ視点の異なる歌詞の曲をいくつか送って、そのうちの一曲が“ゾッコン”でした。それに決まった時は最初に送った曲と全然違ったので「なるほど」と。けっこう泥臭くすり合わせをする過程で初めての発見があり、それが途中から面白くなってきました。

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人間臭くて、自意識過剰な主人公にリンクする歌詞

━━歌詞の言葉選びやテンポ感も、「走り出したくなる気持ち」を掻き立てるのに一役買っているように感じます。歌詞はどのようなテーマで執筆しましたか? 加藤 実は映画用に作った歌詞ではなく、周啓が高校生の時に作った曲の歌詞なんです。タイトルもそのまま。あの歌詞の青春感が良かったみたいで、それを今の自分たちが演奏しても恥ずかしくないようにアレンジしました。 玉置 やっていて嘘のないようにというか、当時の青春とは違うレイヤーの青春を今経験しているので。10年前に作った曲をそのままやるのは難しいし、ある意味大人になってしまったので、そういう意味での装飾は入っています。 ━━その原曲自体はみなさん知っていたわけですよね? 加藤 そうですね。ハタチぐらいに(八丈)島でライブしていた時からです。それを(曲作りに)行き詰まっている時に昔のデモから掘り出しました。 竹田綾子(Ba 以下、竹田) 高校生の時に書いた歌詞を今、大人になって曲にしたらこうなるんだという発見があって面白かったです。 柳澤 主人公の一人(橋本駿)は小説家の卵で、曲の中に言葉のチョイス的なワードがあって。そういう部分も共通点があって、この映画に合っていたんだなと、後から思いました。 玉置 あの曲は映画のお話をいただいていなかったら二度とやっていなかったと思うので、ある意味、映画に拾ってもらったような感覚かもしれません。ただ不思議と今録ってみたら、「見た目ばっか大人になって俺はまだガキなんだな」って思うところもありました。 ━━歌詞に関して、個人的には主人公のふたりの内、駿にリンクしているように感じたのですが。 玉置 あ、この前それに関して面白いなと思ったことがあって。僕はこの歌詞が駿に重なっていいなと思っていたんです。思考が邪魔して行動できないモヤモヤした感じが人間臭くて、自意識過剰で。ただ、映画のプロモーションでインタビューしてもらった時に、インタビュアーの人たちはみんなこの歌詞は実央の方だと思っていたみたいで。こんなにまっすぐで自分の気持ちを伝えられるのは……みたいな。なので、人によって歌詞の感じ方も違うんだなって思いました。 ━━意外ですね。実央への感情にもがきながら、なかなか素直になれず、途中もう心が折れそうになりながらも、やっぱり走り出す……そんな駿の姿をイメージしていました。 玉置 ああ……でもそれを聞くと、映画の制作の方たちが求めていたものを感じてもらえているのかもしれないですね。今回は、結果的に最初から正解を出していなくて良かったとも思えたし、経験として面白かったです。人と何かを作るというのはこういうことなんだなと。自分たちだけで作っているとあまり正解がないというか、その時のモードで正解みたいなのはあるぐらいで。人が作ったものに合わせて、その人の正解を一緒に目指すっていうこれまでできなかった経験でしたし、“ゾッコン”という曲を拾ってもらったことも含めて感謝の気持ちがあります。

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「やっぱ音楽を作る以外にやることないな」

━━最後に、現在のコロナ禍で生活への影響はもちろんあると思いますが、音楽への向き合い方の変化や、純粋に思ったことなどはありましたか? 加藤 まずシンプルに映画の曲ができたっていうのは大きかったですね。みんなが厳しい状況にある中でこうやって話が決まって、そこでバンドのサウンドをドカンと疾走感のある元気な曲で出せた。なかなかこういう形はできないことなので、いいタイミングだったなと思います。 柳澤 僕はこの期間中に「ライブとスタジオで生きていたんだな」と思いました。インプットばっかりでアウトプットがないのは、起伏がなくてずっと凪みたいな感じでした。最近はちょっとずつバンドとしての動きも出てきましたが、まだ途中だと思うので、これからどう動けばいいのかを考えることになるんだろうなって。ただ、逆にこれからが楽しみでもあります。まだまだやれてないことがいっぱいあるから、いろいろ挑戦できるなと思います。 竹田 ライブができなくて、お客さんたちもライブに行けないってなった代わりに、別の形で音楽を聞く時間は増えたのかなって。そういう良い部分もあるなと思います。 玉置 最初の頃は「これからの時代は何が必要か」みたいな話をメンバーと長々話していたけど、行動に移すとなると結局障害だらけ。じっとしているのが一番みたいな結論になる中で、今回みたいにやることがあったことで自分たちが救われた部分は大きかったです。結局、バンドとしてできることは曲を作って、それを聴いてもらうこと。いろいろこねくり回した末にその結論にたどり着いて、その上で“ゾッコン”ができた。今、心が折れずに済むものがあって良かったなって思いますし、「やっぱ音楽を作る以外にやることないな」というのがわかりました。

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interview&text by ラスカル(NaNo.works) Photo by 横山マサト

MONO NO AWARE
MONO NO AWARE 東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順は、大学で竹田綾子、柳澤豊に出会った。 その結果、ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠に 囚われない自由な音を奏でるのだった。 FUJI ROCK FESTIVAL’16 "ROOKIE A GO-GO"から、翌年のメインステージに出演。 2017年3月、1stアルバム『人生、山おり谷おり』を全国リリース。 2018年8月に 2ndアルバム『AHA』発売、数々のフェスに出演するなど次世代バンドとして注目を集める。 2019年10月16日、NHK みんなのうたへの書き下ろし曲「かむかもしかもにどもかも!」、『沈没家族 劇場版』主題歌「A・I・A・O・U」を収録した 3rd Album『かけがえのないもの』をリリース。幼少期から大人への成長をテーマに描いた作品が各所から高い評価を集めている。

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RELEASE INFORMATION

MONO NO AWARE

ゾッコン

2020.09.09(水) MONO NO AWARE ダウンロード・ストリーミングはこちら

映画『海辺のエトランゼ』

MONO NO AWARE

海辺のエトランゼ

2020.09.11(金)公開 詳細はこちら

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Seiho×ゆるミュージック澤田智洋氏“0回目対談” –日本における音楽の意義

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Seiho

音楽の領域を飛びこえ様々な表現に挑戦し続けるアーティストSeihoと、ゆるスポーツゆるミュージックの代表を務め福祉の分野等、多方面で活躍する澤田智洋氏。普段はまったく別のフィールドで活動している。今回Qeticでは、お互いひとつの分野におさまることのない表現、アイデアを追求する者同士から生まれる“何か”を引きだすキッカケとなる場として対談を実施した。 世の中が大きく変わろうとしている今、ごく当たり前の日常から生まれる疑問から考えはじめること。単なる目新しさではなく“新しい概念”を作りだす力は、今まで存在したモノに新たな価値を見出してくれる。それらは、私たちの生活をより豊かにするものになるかもしれない。 “何かを生みだす”ことを続けるSeiho×澤田智洋“0回目対談”。今回、澤田氏が開発した“新しい楽器”のひとつTYPE PLAYERを持参いただいた。それを基軸にトークがスタート。楽器を作る・発案する側の想いと、音楽をつくりプレイする側のアーティストSeihoが考える音楽への想いが語られている。

澤田氏が生み出したTYPE PLAYERの特長

━━TYPE PLAYERは、パソコンのようなタイピングをする新しい楽器ですが、これを作ろうと思ったきっかけを教えてください。 澤田:もともと僕は「ゆるスポーツ」という活動を2015年からやっています。スポーツをしてない人って日本人の45%。僕もスポーツが苦手で、ずっと自分のせいだと思っていたけど、それはむしろそれはスポーツが悪いんじゃないかと思ったんです。なぜかというと、福祉の業界では、「個人モデル」と「社会モデル」っていう考え方があります。車椅子の人が生活するのがツラい時に、悪いのはあなただと考えるのが個人モデルです。社会モデルでは、段差を作った社会が悪いと考えます。福祉ってこの30年くらい社会モデルに向かってるんですね。それとスポーツ同じだなとふと気付いて。 で、同じようなことを別のジャンルでできないかなと思ったら、楽器を演奏している人って10%しか日本にはいないというデータがありました。90%がやっていない。だったら次はみんなができるような楽器を作ろうと。SONYさんと一緒にやろうということになって、去年4月に立ち上げました。 Seiho:このビジュアルだから最初はびっくりするけど、意外に打ち込みのアーティストはPCのキーボードで作ってることが多いから、違和感はないですね。 澤田:アートではなくて、みんなが受け入れやすいものにしたかったんです。PCのキーボードならタイピングゲームとかあるから、みんなどこかしら既視感はあるし、ミュージシャン系の方も普通に打ち込めるから。 一方でポイントは、パソコンではなくしたこと。あえてサイズ感も含めてコンパクトにしたくない、カバンに収められないサイズにしたいと思ったんですよね。要は触りたくなる形とか、セクシーさとか高揚感があるもの。Mac製品も官能的だから触りたくなる。だから、楽器が苦手でも触れたくなるセクシーな楽器というのが必要だなって思って、あえてこういう形に。

【公式】TYPE PLAYER

Seiho:YAMAHAのTENORI-ON(YAMAHAがメディアアーティストの岩井俊雄氏と共同開発した電子楽器。2008年に発売)が出たときに、ある話がすごくもちあがったんです。あれはクリエイティビティを年齢に絞らないように、いかにインターフェースを作っていくかというコンセプトで。ギターの大きさって、明らかに10歳未満の子は手の大きさなどのハンデがある。でもそれを取っ払った楽器を子どもに渡したら、クリエイティビティを削がずに、新しい音楽が生まれるんじゃないか、みたいなことが話題になって。 一方で、やっぱり楽器って練習が大事だよねっていう話は当時からあって。練習しないと意味ないし、うまくならないと演奏した気にならないですよね。結局ボタンを押して音楽が流れるんやったら、それは楽器じゃないから。楽器として大事なことは習得するってことと、演奏が楽しいってことの2つの側面があると思います。 澤田:メーカーが出してる「誰でも簡単に演奏できる」っていう楽器は、誰がやっても割とすぐに上達するんですよね。ピークアウトが早い。僕らが大事にしてるのは、敷居は超低いんだけど、上達しようと思うとめちゃくちゃ練習しがいがあるということ。楽器として面白くないといけないと思ってます。 Seiho:そこは楽器のポイントであり、おもしろさですよね。 澤田:カリスマが楽器によって生まれないと意味がないんですよ。 Seiho:TENORI-ONはインターフェースとしては面白くて、MIDIを吐き出せたから、結構応用しながらみんなが使ってましたね。でも楽器の難しいところは、電子音楽系の人って、特にいま流行ってるモジュラーシンセとか、楽器が問題解決になるって勘違いが発生しちゃうところ。高いギターを買ったら、うまく演奏できるはずやみたいな。実際は、楽器は問題解決してくれないんですよ。 澤田:だから楽器で能力拡張感が出るといいと思いますね。楽器がその人の能力を阻害するのではなく、楽器が人の可能性を爆発させる。セグウェイってある種すごくて。重心の傾け具合によって動くというスタイルに機械との一体感がある。そうでないと、自分ではなく、テクノロジーが全部やってしまっているっていう感覚は確かに生まれますね。

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Seiho、澤田智洋が語る音楽教育のあり方と楽器との触れ合い方

澤田:いま新しい楽器だけを使うバンドを組もうと思っていて、新しい楽器が開発されたらさらにメンバーが入るみたいな実験ですね。でもどちらかというと、バンドでは音楽のトラウマを癒すという方向性を追求しています。楽器は向いてないと思っていたけれども、僕らが作った楽器によって演奏できたっていう体験が大事。傷がひとつ消えることで人生がすごく豊かになる。 Seiho:日本の音楽教育でよくないところは、まずピアニカを渡すこと。意図としてはわかるんです。押しただけで鳴るんじゃなくて、吹かなきゃならないんで、身体能力と指先のスキルと両方を教育できる。そしてみんなに配れるくらい安いから、一番効率がいいとは思うんですけど。 澤田:リコーダーにも同じ問題があると思うんです。リコーダーってみんながみんな面白さを見出すわけじゃないし、単純だし。リコーダーとピアニカの間くらいの楽器が、本当は学校には必要だと思いますね。 Seiho:僕の音楽の先生が、小学校4年生の時に突然学校に来なくなったんですよ。で、帰ってきたら髪の毛が真っピンクになってて。聞いたら「hideが死んでん......」ってX JAPANhideのお葬式に行ってたんですよ! それ以来、先生が持ってたレコーディングの楽器とか電子ドラムとかギターとかを音楽室に置くようになった。僕がエレキギターに初めて触ったのもそのとき。MTRで曲を作り出したのもその先生がきっかけなんです。だから、何を触ってもいいっていう環境にしとけば、別にいい気はすんねんけどね。クラスの全員が演奏できる必要もあんまりないし。

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澤田:楽器は最初のきっかけってのが本当に難しいですよね。 Seiho:だって今、どれだけ勧められてもスポーツしたくないんですもん(笑)。 澤田:きっと人口20%くらいの人は、何を言われてもスポーツはしないし、あるいは楽器を弾くことは一生しないんです。けど、60%くらいの人はもしかしたらするかも知れない。その60%の人がなんで楽器を演奏しないかというと、トラウマがあるからです。お金がないとかきっかけがないとか仲間がいないとか、部屋が狭いとか。そういう言い訳を消していけないかなと思っています。 TYPE PLAYERの楽譜って、文字列なんです。おたまじゃくしだとみんな読めないからExcelっぽくしたんですけど、要は楽譜にかかれてあるタイミングでキーボードの文字入力をすればいいので、ビジネスマンでも初見で意外と弾けるんですよ。だから、楽器を弾きたくても弾けなかった人が、楽譜を見て無理だと思っても、初見でも弾けるからすごく感動される。

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Seiho:最初のきっかけという話でいえば、例えば、音ゲーは出会いとしてどうですか? 澤田:音ゲーはすごくいいです。ただゲーセンのゲームっていうブランディングになっているので、子供が2歳になったら、立派な楽器として太鼓の達人とかbeatmaniaをやらせるとかってことになったらいいですよね。 Seiho:いまだとiPhoneのピアノアプリとか、スケール系のアプリが出てたりする。あれを小さい頃やってたらめっちゃ良かったのになって思う。 澤田ダフトパンク(Daft Punk)のDJアプリが数年前に出たんですけど、あれも楽器として最高です。でも親とか先生とかによって音楽との出会いが変わって来ちゃうというのはなかなかハンドリングしづらいので、大人になった時にどうやって再デビューを果たすかということに僕らは力を入れてます。あとはそういうトラウマがある大人と、一緒に楽器をつくるっていうのも重視しています。そのプロセスでトラウマが浄化されていくので。

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音楽を聴く人・やる人・作る人からみた課題

Seiho:音楽は聴く人と、やる(演奏する)人と、作る(作曲する)人っていう3つのレイヤーがあって、その違いを考えるのが大事だと思うんですよ。その時に、例えば聴くのとやるのとを一緒にして、聴くためにやるっていうのなら苦手な人もできそう。嫌な家事がこの1曲で済みますとか、朝起きるのが嫌でもこの曲が流れたら必然的に起きられますみたいな。聴くっていう行為を増幅させられる行為というか、そういう使い方っていうのも全然あるかなと。 澤田:僕らはANDCHESTRA VIOLIN(アンドケストラバイオリン)という視線で入力できるバイオリンも作ってるんです。まだ完成はしていないんですけど(取材当時は完成前)、演奏モードは、自分が弾かないとオケが流れないようにしています。それはそれぞれの人生に音楽が付いてくるという体験を作りたかったからです。あなたがここまで生きてきたのは色々な経験を積んできているからであって、本当はそれを活かせる楽器があるはずなんだけどない。タイピングって日本人が世界で一番しているし、みんなブラインドタッチできるのに、楽器がないからこの能力が活かせない。 ━━経験や人生に、楽器が伴奏するって考え方はおもしろいですね。 澤田:僕もアメリカと日本のインディーズで音楽をずっと続けていたんですよ。でも社会人になってから曲を作る回数が減っちゃって。それまで年間20曲は作ってたんですけど、社会人になったら年間1曲しか作らなくなって、ギターもDTMもほとんど触らなくなった。そういう側面でいえば、どう考えても僕の人生って劣化してるんですよね。でも、もう1回音楽やるとすれば、オヤジバンドしか選択肢がない。だから楽器を作ろうと思ったんです。 Seiho:大学の時、TYPE PLAYERだったりANDCHESTRA VIOLINに似たような楽器の研究に参加してて。お風呂の縁でDJをするみたいなものなんですけど。お風呂の縁をこすったら振動と音を認識して、それでスクラッチができるっていうのと、あとサンプラーとDJのミックスができるボタンをつけて、心拍数に合わせてお風呂に入りながら演奏できるっていう。それはもともと、お風呂に入ってる時に心拍が一気に上がったり下がったりすることについての研究だったんですけど、それを応用して楽器に落とし込んだ感じです。 澤田:意外に近いことやってますね。それ今すぐ作りたいです。 Bathcratch: 浴槽をこするDJスクラッチシステム

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Seiho:話は戻りますけど、音楽の場合は、3つのレイヤーでいうと、曲を作るってのがめっちゃ難しいでしょ。例えば小説を読むことと書くことは、全然違うことじゃないですか。1万冊読んだ人がいい小説を書けるわけでもないし、1冊も読んだことないけどめちゃめちゃやばい小説を書く人もいるじゃないですか。そもそも作るってこととやるってことは別々のものだから。でも、澤田さんがやってるのはめちゃくちゃ分かるんです。スポーツとして捉えたらこの発想になるんですよ。だって、サッカーはきっと見るよりやる方が楽しい。ダンスとかもそうで、踊れたらもっと楽しいよなって。でも音楽は、聴いてる方がやるよりも楽しかったりもするし、作るよりもやってる方が楽しかったりする。「聴くこと < やること < 作ること」には意外にならないっていう、ここが結構ポイントな気がする。 澤田:確かに。実は楽器をやりたいという人は6、7割いると言われているけど、もちろん全員ではない。僕らも楽器演奏を、全員には押し付けようとはしていなくて、本当はやりたいと思っている人がそんなにいるんだったらそのギャップを埋められるかなと。 Seiho:だからTENORI-ONは、演奏するのはレベルが上がっていかないから面白くないんですけど、作るっていうことに関してはめちゃくちゃ楽しめる。マスを押してたら音が鳴って、作れていくから、作るっていうことをみんなに平等にしたっていうのはすごい発明だと思う。

TENORI-ON Demo “H2T”

Seiho
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そもそも音楽とはなんなのか?

━━アーティストの和田永さんも「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」として楽器を作って演奏する活動をしていますが、こうしたプロジェクトは、そもそも「音と音楽の境界はなにか?」「音楽とはなんなのか?」といった根源的な問いを考えさせられますね。 澤田:音楽はいろいろな説があると思うんですけど、僕は漢字マニアでして(笑)。楽っていう字は下に木があって、上に白がある。上の白っていうのは頭蓋骨で、木の上に頭蓋骨をのせている状態を表しているんですね。つまり英雄が亡くなった時に、切り株の上に頭蓋骨を乗せて装飾して弔いの歌を歌うというのが語源とも言われています。だから故人を弔うでもいいですし、全然別の用途として、擬似グルーミングとして結束を高めるでもいいし、人が人のために音楽を鳴らす時に音楽になるっていう。 Seiho:それでいうとこの間、山本精一さんがやった無観客無配信ライブはむちゃくちゃメタ的でおもしろかったですね。誰も聞いてないしどこにも配信してないっていうのが、果たして音楽なのかどうか考えさせられる。 藤井貞和「うた:ゆくりなく夏姿するきみは去り」って本の中で興味深いうたの考察がある。うたがつく日本語って、《疑う》とか、《うただのしい》とか、《うたがなしい》とか《うたたね》とか、いろいろあるんですけど、そうじゃないのにそうしてしまってる状態のことを意味していて。《うたた寝》って寝たくないのに寝ちゃってる状態、《疑う》って信じたいのに信じたくない状態のこと。もともとうたの語源は、そうじゃないのにそうしてしまうことだと思うんです。例えばアイヌとかで、家事をしている時に帰ってこない旦那のことを、いないはずなのに話しかけてるみたいな歌がある。 ━━歌のある音楽とない音楽の明確な線引きって、Seihoさんはしているんですか? Seiho:言葉と音楽、身体と音楽の関係についてはずっと考えてます。だからこそ言葉を持たず、身体性が少ない僕の スタイルになったとも言えるでしょうね。

━━年末には心光院で<NOBODY>という年越しイベントを開催して、シンセ一台で6時間くらい演奏していましたが、あれはどういう位置付けですか? Seiho:あれはクラブに対するカウンターやった。カウントダウンでみんなで会うところはあるけど、自分に会えるカウントダウンのライブってあんまりないなって思ってて。自分に会いに行けるところってお寺かなとか、自分に会いに行ける音楽ってアンビエントとかノイズかなって考えて、やってみた感じですね。音楽もやっぱり、人と共鳴したいとか繋がりたいみたいなのが強くなりすぎてて。でも本来僕は、自分と向き合えるとか自分に会えるとか深く考えられるみたいなところが音楽のミソやと思ってるところもあって、ちょっとそっちが最近ないがしろにされてるなって思って。 澤田:新しい楽器を作るっていうのは「自分はこういう時に鳥肌たつんだ」「自分ってこういうパフォーマンススタイルを隠し持ってたのか」と、新しい自分に会える場所だと思います。 Seiho:ミュージシャンも楽器を置いている部屋のレイアウトが変わるだけで変わる。キーボードの位置が変わるだけで、作る曲が結構変わったりする。 澤田:音楽のあり方自体が複雑だから、環境と文脈によっても解釈の仕方が全然変わっていきますよね。いまは楽器の種類が少なくて、服のサイズでいえばS、M、L、LLくらい。強引に自分に合わない楽器をみんなやらされてきてるから、解釈の幅が狭い。だから、それぞれの人にフィットするような楽器をたくさん作りたいです。リズム感がなかろうが音痴だろうが、あなたは悪くないって言い続けたい。ただ、そういう問いだけだとなかなかわかってもらえないので、形にしなきゃいけないというのはジレンマではありますが。 Seiho:そこも、身体とのジレンマみたいな要素が音楽にはあって。黒人がなんでテクノやり始めたのか。あれは黒人のグルーヴを追求しようとしたのか、それとも身体から出ようとしたのかみたいな考察はあると思うんですよ。電子音楽をやってる人って、身体から出たいという思いと、出た先の世界が自分の肉体に果たして代わり得るのかどうか、結果としてやっぱり指弾きがめっちゃいいみたいな感じで戻ってくる、みたいな繰り返しがあったりする。

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日本の音楽の常識を覆す

澤田:ゆるスポーツをやっているのも、スポーツの目的って、勝つことだけが全てじゃないんじゃないかと思うからなんです。むちゃくちゃ笑えるからやってますとか、仲間ができるからやってますとか、目的は様々でいい。ゆるスポーツでは得点を競っているんじゃなくて「接点」を競っているんだって考えています。音楽でも接点が途絶えちゃってる人は多いと思う。聞かなくなっている人も増えているし、10代の子で音楽はTikTokでしか聴かないという人もいる。それも15秒とかで。 Seiho:逆説的だけど、音楽を聴かなくてもいいと思うんですよね。音楽より楽しいことがあるんなら若い子は急いでそっちに行けばいい。どっちにしろ音楽には視覚の情報がないから。例えば音楽を聴く時間を素晴らしい映画に当てるのもいいし、読書に当てるのもいい、と。そうしていったときに、必然的に音楽に戻ってくる要素は逆にめちゃくちゃあると思うんですよ。なぜかというと音楽は聴き流しできるし、何かをしながらでも聴けるし、目の情報を奪わないって、これは結構でかいんですよね。結果的に音楽や、音楽的なものの考え方の重要性が、ここ2、3年でまたガッと来そうな予感があります。見るっていう行為がしんどいって、みんななると思うねんな。 澤田:確かに、次は目を疑うフェーズに行きそうですね。よく言われるけど、かき氷のシロップって色違うけど全部味は一緒じゃないですか。目が見えない友達とラーメン屋にいくと、塩ラーメンと醤油ラーメンって味は一緒に感じるっていう。要は目って錯覚だらけでフェイクだらけなんですよ。だけど声って嘘つけない。少しずつ戻りつつありますよね、みんな自分のラジオをvoicyとかのボイスメディアで作り始めてるし。 Seiho:ただ耳は複数聴けないっていう弱点がありますよね。僕は映画を2倍速でたくさん見るんですよ。でも音楽は倍速にしたら、意味が変わっちゃうじゃないですか。 澤田:でもそれがすごくいいところですよね。時間を人工的に伸縮させたら、価値が台無しになっちゃうって。 Seiho:絶対に時間はどんどん希少価値が高くなっていくから。音楽はめちゃくちゃ贅沢な耳の使い方なんですよね。 ━━ちなみに、ゆるミュージックは、楽器の数を増やすとか、楽器をやらない80%のうちの何人が音楽に関わるようにするとか、どこにゴールを置いているんですか? 澤田:あんまりないんですよね。概念って、そもそもどんどん守備範囲が狭くなるものだと思っていて。例えばスポーツだったら、試合中に笑うのはいけないっていうのが戦後の日本のスポーツだったんで、超範囲が狭いじゃないですか。スポーツ=体育になっちゃうから。なのでゆるスポーツはその守備範囲を広げる。守備範囲が広い方が安心するというか、人工的に広げるというのをやっていきたいと思っています。音楽も一緒で、音楽=譜面通りとか、どんどん守備範囲が狭くなっていく。例えばカラオケの採点マシンで競うテレビ番組がありますが、あれって音を外さないのが正義だっていう尺度じゃないですか、それって狭いなって思う。僕は楽器人口を増やしたいとか細かいことは言っているわけではなくて、音楽の概念のストレッチがしたいだけです。 Seiho:今の話聞いてると、やる人じゃなくて、作る人の幅を広げたいって思ってるんやなってめっちゃ思いました。なんでみんな音楽を作れないのか、僕はあんまりよくわかんないんですよね。日記みたいな感じで毎日みんな1曲作ればいいのにって。その苦手意識は、楽器をやるってことから解き放たれたら、もっとみんな気楽に作れるんじゃないかなとか思います。 澤田:ブンネっていうスウェーデンの楽器があって、ギターみたいな感じなんですけど、コードが3コード、C、G、Fだけで、しかもバーをスライドさせるだけで音が鳴る。動作は超シンプルで、それで作曲しましょうっていうワークショップをやるとみんなできるんですよ。コードが3つしかないから聞こえる音は決まってくるし、3つしかないのも逆にその中でなんでもやっていいんだっていう安心感もある。あと僕は子供がいるんですけど、適当な子守唄とか作っちゃうんですね。他のご家庭に聞くと、うちもやっているよって人は多くて、みんな子守唄を作ってるじゃんって思いました。その鼻歌を集めて、アレンジャーが編曲するプラットフォームがあれば名曲が山ほど生まれそう。

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敷居を下げず、間口を広げる音楽の多様性

澤田:あと気になるのが、日本の音楽シーンってラブソングの比率が高すぎないかなって思うんですよ。僕はいま38歳ですけど、38歳の日本人に寄り添ってくれる日本の歌がそんなには多くないですよね。 Seiho:ラブソングが多いのは単純に日本の映画やドラマよりも、AVの数が多いねって話と結構近いと思うんですよ。ポルノでしかないじゃないですか、ラブソングって。もうひとつは音楽だけが、若い子が作って若い子が聴くものになってしまっている。これが一番の日本の音楽シーンの問題点ですね。 澤田:例えばaikoさんのラブソングじゃない歌ももっと聴きたいと思ったりします。日本はミュージシャンの成長に対して、その方が作った曲が伴走してないって思えちゃうんですよね、それがすごい違和感。 Seiho:それは90年代のJ-POPから言われてるんですよね。ラブソングはポルノ的だってことが大きいと思います。恋愛っていう言葉に関してはみんなが共通して、気持ち良さを感じられるから。 ━━澤田さんはアートをやりたくないっておっしゃってたんですけど、TYPE PLAYERってかっこいいから芸術にもなる可能性はあるんじゃないかなとも思ったんですが、どうでしょうか? 澤田:最終的にアートになるのはいいんですけど、アートっていう言葉にみんな逃げるなぁと思っていまして。何かを作ったときに、誰もわかってもらえなくていいからって言いがちじゃないですか。だからアートって言わないようにしてるんです。アートって「なにそれ感」が強すぎるというか。「なるほど感」もそこに入れたいんですよね。日本人はタイピングを日常的にしているから、それを活かせる楽器を作ったら、なるほど感が出ると思っていますね。 Seiho:でも僕は絶対に敷居は下げたくないんですよ。敷居は下げずに、間口を広げるって方がいい。敷居を下げちゃうとコンテンツの良さがわからなくなるから。例えば演劇の敷居を下げるって、どんどん下げていったらそれって演劇なのかどうかもわからなくなるじゃないですか。だから、間口は広げておいて、コンテンツの敷居はガンガンあげちゃっていいんですよ。作品はむずいんだけど、あの人にこやかだから聴いてみようかなみたいなことを目指してます。 澤田:Seihoさんって眼差しが優しいっていうか、音楽へのまなざしがすごく優しいし、勉強する人へのまなざしもすごく優しいし、それが今日は印象的でしたね。思想とか尖ってるし、洋服も尖ってる。けどまなざしが優しい。バランスがすごい面白いなって。 Seiho:相手に期待してるところが大きいからですよね。たどり着かないと理解できないことっていっぱいあるし、やれって言われてやったことはやったうちに入らないですから。そこをどうやって促すかのスイッチを探し続ける作業だから、優しくなるのかも知れへんね。

━━優しさってことだと、Seihoさんはクラブとかライブをひとつのコミュニティとしてとても大事にしていますよね。澤田さんはどうですか? 澤田:僕は逆にコミュニティを作らないようにしている。 Seiho:多様な方にむかってるってことですか? 澤田:コミュニティってそこに共通の言語があるじゃないですか、僕はそれがちょっと嫌なんですよ。そこに新しい人が入ってきてもすっと入れるようにしたいんですよね。僕はコミュニティ内で年下の人にも敬語を使うんですよ。タメ語って暴力的なところがあるから、フラットにしておきたいというか、世界観を作りたくない。 Seiho:フラットにするってのは逆に共通点ですよ。僕もスーパーフラットが好きですから。さっきの作法の話にもつながりますが、作法ってのは敷居が意外にないってことなんです。高級レストランの作法と、マクドナルドの作法って、一緒やんって思う。マクドナルドの作法がわからへんやつは、高級レストランの作法がわかってても、所詮その程度みたいな思いがある。作法って知識の量やから、音楽の聴き方もアートの作品の見方も、作法はあるけど良し悪しはない。そこは共通知性っていう考え方なんです。 ━━お二人の活動する業界考えの成り立ちは違うんですが、聞いていると最終的な方向性に共通点があるように思えます。ここから何か今までにないコラボレーションが生まれることを期待しています。 澤田:そうですね。Seihoさん何かやりましょう! Seiho:いや、めっちゃやりたいっすね。何ができるかな? 澤田:一度、僕の関わる福祉関係の施設や学校に来てみませんか? ビックリするくらい色んなことに気付かされることがたくさんあるので。そこから何かアイデアが浮かぶかもしれないです。 Seiho:それいいですね! 施設や学校で何かパフォーマンスとか音楽に触れてもらったりする機会ができたら面白いですね。

Text by 名小路浩志郎 Photo by Leo Youlagi

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PROFILE

Seiho

DJ、トラックメーカーとして自身の音楽活動を広げる中、近年は新たな試みとして「靉靆」「雲霓」「霖雨」といった様々なクリエイター、アーティストと共に表現を追求するプロジェクトを打出す。そして2020年、遂に独立、レーベルを立ち上げる。ここから更に表現の領域を広げるべく、さらなる境地に向かっている。 Seiho

澤田智洋

福祉クリエイターとして福祉領域のビジネスを手がける。代表的な活動として世界ゆるスポーツ協会代表として、運動オンチでもできるスポーツを開発し近年注目される人物。そんな澤田氏、実は本業はコピーライターの顔を持つ。それ他、音楽ユニットのプロデュース、近年はゆるミュージックを立上げ新たな楽器づくりを行うなど、活動は多岐に渡る。 ゆるミュージック ゆるスポーツ

INFORMATION

Seiho

INC COCKTAILS

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-5-6 B1F 19:00 - 3:00 (2:30LO) 03-6805-1774 INC ONLINE STORE INC COCKTAILS Instagram 詳細はこちら

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自転車がアートを運び、風景が変わる。文化庁メディア芸術祭とMAPP_が提案する街のインスタレーション

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MAPP_TOKYO

部屋にこもりながらPCやスマホの画面を眺めながら感じたのは「家以外の場所で、何か全身で震えるような体験をしたい」だった。ただ、その舞台というのは天井の高い美術館や映画館を想定していたわけで、まさか「美術館の壁」を眺めながらそんな体験ができるようになるとは思っていなかった。 <第23回 文化庁メディア芸術祭 受賞作品展>の開催にあわせ、プロジェクションマッピングを駆使するカナダ発のコレクティブ・MAPP_が、何かトンデモナイことを企てているようである。

プロ・アマ・個人・商業の区別なく選ばれた39作品

9月27日(日)まで、東京・日本未来科学館にて<第23回 文化庁メディア芸術祭 受賞作品展>が開催されている(特設ウェブサイトは10月末まで公開)。厳正なる審査を経て選定された受賞作品が、一堂に会する。 1997年、インターネットの普及と世界的な芸術祭の振興により産声をあげた文化庁メディア芸術祭。過去には宮崎駿監督作「もののけ姫」から東村アキコ作「かくかくしかじか」など、知名度の高い作品も多くアワードを獲得している。 昨年2019年には、世界107の国と地域から3,566点もの作品が応募されたという。その中から「アート」「エンターテインメント」「アニメーション」「マンガ」という4部門ごとに大賞、優秀賞、新人賞、そして新設のソーシャル・インパクト賞、U-18賞が選出された。 今年3月に実行委員会が発表した受賞一覧には、プロ・アマ、個人・商業の区別なく、39作品の名が挙がっている。

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
▲Adam W. BROWN『[ir]reverent: Miracles on Demand』

アート部門では、肉眼では見えない微生物が人間の歴史と信念体系に与える影響を示したインスタレーション『[ir]reverent: Miracles on Demand』が大賞を受賞。優秀賞には、日本・アメリカ・台湾のチームによる、熱エネルギーが音響エネルギーに変換されるときに発生する音を利用した作品『Soundform No.1』などが受賞した。

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
渡辺歩作『海獣の子供』

また、アニメーション部門で大賞を獲得したのは、原作も第13回マンガ部門優秀賞に選ばれている渡辺歩監督作『海獣の子供』。また、八代健志によるストップモーション・アニメーション作品『ごん』が優秀賞を獲得している。

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
『Shadows as Athletes』

エンターテインメント部門には佐藤雅彦らが日本オリンピックミュージアムに設置されたウェルカムビジョンのために作成した映像『Shadows as Athletes』が大賞、音楽アーティスト・amazarashiの武道館公演『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』が優秀賞を受賞。マンガ部門では島田虎之介のSFオムニバス作品『ロボ・サピエンス前史』や、雁須磨子の『あした死ぬには、』などが受賞作品に挙がっている。 なお、今回の受賞作品展は新型コロナウイルス感染防止対策として、来場人数を制限し、事前予約制にて開催される。会場は360度VRカメラで撮影しており、特設ウェブサイトからも閲覧できることが、例年にない特徴だ。受賞者トークイベントについても、特設ウェブサイトでの配信を予定しているため、来場が難しい人にも楽しめる内容となっている。

渋谷一帯の商業施設や美術館が巨大なキャンバスに変わる

では、今回の<第23回文化庁メディア芸術祭受賞展>の広報として実施される『MAPP_TOKYO』で、彼らは一体何を企てているのか。施策について説明する前に、MAPP_のことを紹介したい。 彼らは2016年にカナダ・モントリオールで結成された「プロジェクションマッピングの概念を変える」コレクティブだ。彼らは今までも、ヨーロッパや中米などで行われる大規模なアートフェスティバルや、カナダで1億人以上を動員した「ミュラルフェスティバル」などとコラボレーションから地域社会との絆を深める活動まで、多岐に渡る活動を数多く敢行してきた。

MAPP_TOKYO
MAPP_TOKYO
MAPP_TOKYO
MAPP_TOKYO
▲2020年、カナダ・モントリオールに投影されたMAPP_の作品

この経歴からも、ほとんどの人は「プロジェクションマッピングをする」とまでは予測がつくだろう。しかし、問題はここからだ。MAPP_が今回舞台とするのは、公共機関である街の壁だ。 特に、現在投影を想定しているのは商業施設、学校、神社、区の建物など、渋谷一帯のあらゆるランドマーク。彼らは自転車で移動しながら、それら予定地の壁に国内外における若手アーティストの作品を投影していくという。ちなみに実際の投影ルートは未だ謎に包まれており、ある種のゲリラ的なインスタレーションとなることは予測される。 では、なぜ大規模なプロジェクションマッピングではなく、「自転車で」「都内を回る」のだろうか? MAPP_のメンバーは、今回の企画についてこう語る。

MAPP_JPN プロデューサー・竹川潤一 「文化庁は、若いアーティストやクリエイターを支援して活躍できる場所をたくさんつくりたいと日々模索しています。でも、限界がある。それは日本の“展示”が屋内中心だからです。そこで、僕たちは“屋外”に作品を展示する可能性を提示できればと考えています。 自転車にプロジェクターをつけて屋外に投影する。要素だけでは簡単そうですが、実は先端的な創造力を使っています。何より前例が無い。 それでも、アートは街には必要です。前例が無い、技術が難しい、法整備ができていないというだけの理由で『できない』という言い訳はしたくありません。日本の屋外に展示場所を作る、という可能性を未来に打ち出すために、今回のプロジェクトは始まりました。プロジェクター付き自転車が、これからアーティストの活躍の場になることを期待しています」
MAPP_JPN アートディレクター・YASUKO TADOKORO 「実は、日本では前例がないということで実現までのハードルがとても高かったのですが、私たちの活動の意味を理解してくださった渋谷区をはじめ、投影許可をくださった方々のサポートのおかげで乗り越えることができました。前例がないから無理と諦めるのではなく、前例がないなら誰かがその前例を作るしかないんですよね。じゃないと先に進めないし、つながらない。 今回のMAPP_TOKYOの活動を皆さまに楽しんでいただけたら、それはもちろん嬉しいことなのですが、間接的に少しでも未来の誰かの活動につながるような、小さな道を私たちも作っていけたら良いなと思っています」

また、MAPP_のメンバーらは投影する作品について、壁に投影することを想定した“選定基準”を設けた。

MAPP_JPN アートディレクター・YASUKO TADOKORO 「ふと顔を上げた時にそれを目にした方が、思わず誰かに伝えたくなるようなハッとする文章やちょっと笑ってしまう楽しいイラスト、なんだろう?と興味を持ってもらえるような作品を投影したいと思い、選ばせていただきました。 今回、新型コロナウイルス感染拡大防止という点から開催場所の告知はせず、街の中を移動しながら投影するので、偶然その場に居合わせた方しかご覧いただくことができません。だからこそ、虹を見つけた時にわあ!と、気持ちがふわっと上がって、思わず誰かとその瞬間を共有したくなるような感じというか。その気持ちを大事にしました。 一方でモントリオールからは、ロックダウン中に始めたMessengers of Hopeというプロジェクトに参加してくれたアーティスト達を中心にお願いしました。普段から共に活動することの多い、MAPP_にとって大切な、そして才能溢れるアーティストばかりです」
MAPP_TOKYO
作者:Keeenue
MAPP_TOKYO
作者:LY
MAPP_TOKYO
作者:くどうれいん
MAPP_TOKYO
作者:伊藤 敦志 (第23回メディア芸術祭マンガ部門 新人賞受賞) ▲「MAPP_TOKYO」で投影される作品の一例
一方で、このプロジェクトにアーティストとして参加するメンバー・伊藤敦志は、「普段絵を描けないところに絵を投影する」ことに魅力を感じたという。彼はマンガ著書『大人になれば』が、第23回メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を獲得したイラストレーターだ。
イラストレーター・伊藤敦志 「壁に実際に絵を描くとそれを動かすことができませんが、この移動型ショーケースでは様々な場所に投影することができ、動かすこともできるので、その場所にあったいろいろな見せ方ができるのではないかと可能性を感じます。 当日は『自転車で移動しながら投影していく』とありましたので、DIYな印象を受けました。自分の作風にも合っていて面白いのではないかと楽しみにしています」

たくさんの“文化”を乗せた自転車が、街に色を戻していく

今、東京の街にも徐々に人が戻りつつある。元の生活が戻った訳でもないし、相変わらず脅威は脅威のままだ。しかし「MAPP_TOKYO」の構想を聞けば聞くほど、どうしてもある映像が脳内で再生されてしまう。それは、一台の自転車が颯爽と風を切りながら、あちこちに色を落として、モノクロの街中に彩りを与えていくイメージだ。 とんでもないパンデミックに襲われた2020年は、このままあっという間に過ぎてしまうだろう。慌ただしくも平坦な日々の中、ふと安らぎを感じたのは、マンガやアニメ、アートに触れる時間、インターネットを通じて発信されるコンテンツを享受する時間だった(Qeticの読者である皆さんなら、同じ境遇の人が多いハズ)。 特に、直接ホンモノに触れることが難しくなってしまうことを経験した今。優れた作品を目の前にすると「サイコーの瞬間を生み出してくれて、本当にありがとうございます……」と一層頭が上がらない。 まずは、第23回文化庁メディア芸術祭に挑戦した全ての作品たちに最大のリスペクトを。そして受賞した39作品を生み出したアーティスト・クリエイターに拍手を。さらには2020年、“オープンエアな移動式の鑑賞体験”に挑戦し、町中にアートを咲かせようとするMAPP_のメンバーと第23回文化庁メディア芸術祭スタッフに、最大限のエールを贈りたい。

MAPP_TOKYO
撮影:コハラタケル
MAPP_TOKYO
作品:くどうれいん 撮影/Kaze
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作品:VJ SUAVE 撮影/コハラタケル
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作品:伊藤 敦志 撮影/コハラタケル ▲2020年9月15日 MAPP_TOKYOの作品一例

Text by Nozomi Takagi

EVENT INFORMATION

MAPP_TOKYO

期間: 2020年9月15日(火) 19:30 - 21:30 2020年9月18日(金) 19:30 - 21:30 2020年9月20日(日) 19:30 - 21:30 *天候により、日時を変更する可能性があります 会場: 渋谷区各所 *新型コロナウイルス感染防止のため、開催場所の告知予定はありません (雨天時:天候により実施可否判断) 詳細はこちら

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

第23回文化庁メディア芸術祭

会期: 2020年9月19日(土)~9月27日(日) 場所: 日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6) 詳細はこちら

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

開催期間: 2020年9月19日(土)~9月27日(日) 開催時間: 10:00~17:00 会場: 日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6) 入場料: 無料(事前予約制) 予約: 文化庁メディア芸術祭公式ウェブサイトにて受付 主催: 文化庁メディア芸術祭実行委員会 詳細はこちら

トークイベント概要

2020年9月19日(土)配信開始 2020年9月20日(日)以降も優秀賞、ソーシャル・インパクト賞、新人賞、U‐18賞、フェスティバル・プラットフォーム賞、功労賞の各トークイベントを順次配信 詳細はこちら

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STUTSインタビュー|新作『Contrast』でも表われるヒップホップへの変わらない敬愛

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STUTS

2010年代、日本のヒップホップは新世代の登場で確実に作品の質と幅を拡げたと言える。BAD HOP、KANDYTOWN、もしくはFla$hBackSといった多くの新しい才能が新しい意識と新しいビートと共にシーンに話題を提供した。 そのなかでトラックメイカーSTUTSの名前と才能は、2010年前後から“現場”にいる人々の口に上り始めていたが、2013年ニューヨークの路上でのMPCライヴパフォーマンスの動画は、その存在を多くの人に知らせる契機となった。2枚のソロ・アルバム『Pushin’』(16年)と『Eutopia』(18年)はもちろん、前者からのカットPUNPEEとの“夜を使い果たして”、2017年のコラボ『ABS+STUTS』、翌年の星野源『POP VIRUS』参加、NHK紅白歌合戦のBGMプロデュースで彼の名前はヒップホップのシーンの外に浸透したといえるのでは? 彼の音楽の特徴を、突飛かも知れないが遥か昔1990年代後半のUSの”ネオ・ソウル”の文脈と繋げられないか。例えば、ディアンジェロ(D’Angelo)やエリカ・バドゥ(Erykah Badu)のビートや声を聞いた時のアートへの人間的で能動的な働きかけをSTUTSの音楽に感じるからだ。音楽を使い捨ての娯楽と考えず、そこから何かもっと深いものへ向かう始まりとして取り組むこと――ミニ・アルバム『CONTRAST』をリリースする彼に、今までのキャリアを振り返ってもらった。

STUTS

INTERVIEW:STUTS

音楽表現の原体験としてのヒップホップ

━━今日はよろしくお願いします。まずはSTUTSさんの育った環境からの音楽的な影響があれば伺いたいです。 家では色んな音楽が流れているというわけではなかったのですが、現行のポップスではなく、山下達郎さん、ユーミンさん、あとビートルズ(The Beatles)とか。基本的にはその3組のアーティストがよく車とかで流れていたような感じでした。 ━━そこからどのようにヒップホップ を聴くようになったのでしょうか? 小学校の頃に音楽好きな友達がいてあるCDを貸してもらって、その中に色々日本の音楽が入っていたんです。その中にCHEMISTRYさんの楽曲が入っていて、気になって自分でCHEMISTRYさんのファースト・アルバムを買ったんです。そこにDABOさんをフィーチャリングした“BROTHERHOOD”という曲があって初めてヒップホップに触れて。 その曲をずっと聴いていたらちょうどRIP SLYMEさんとかKICK THE CAN CREWさんとかがテレビとかでも流れ始めるようになって、それでハマっていきました。それまで音楽を能動的に聴くっていうこともあまりなかった。ヒップホップにハマってから音楽が好きになったんです。それから、中3ぐらいの時に、LAMP EYEさんの“証言”とウータン・クラン(Wu-Tang Clan)の“Wu-Tang Clan Ain’t Nuthing Ta F’ Wit”で使っているビートを聴いて「このドラム同じだ!格好いいビートだな」と思い(笑)。その時に初めてサンプリングを知りました。 ━━その時はもうトラックを作り始めていましたか? 中2か中3くらいの時に初めて自分でラップしてみようって思って、ビートが欲しくなって作り始めたんです。中3の時には、トライブ(A Tribe Called Quest)の“バギン・アウト(Buggin’ Out)”という曲で「これだ」ってすごく感銘を受けて。それから、結構もう90年代のヒップホップにハマって、最初作ったビートは割とそういう感じでした。 ああいう、メロウでグルーヴィな感じもあり、暗いのではなくポジティブで前向きな雰囲気があるもの。それには、家で流れていた山下達郎さん、松任谷由美さんといったブラック・ミュージック、AORに影響を受けたグルーヴィな音楽の刷り込みがあったのかなと思います。だから、自ずとハマる音楽もそういうものになっていったのかなっていう気がします。 ━━2010年にはもう色々なアーティストにビートを提供なさっていますね。SUICA、ZORN THE DARKNESS、TK DA 黒ぶち、寺尾沙穂、HAIIRO DE ROSSI……。まだまだありますし、アーティストの幅も広いんですが、Darthreiderの”SUPER DEAD“は隠れた日本のクラシックだと考えています。少しこの辺りのお話聞かせてください。 この時期はずっとビートを作っては溜めていました。実は提供したもの以上に色々ビートを作っていたんです。“SUPER DEAD”のビートはその当時のお気に入りのビートで、ダースさんに送ったストックの中から選ばれて使ってもらったという感じでした。自分が作ったビートにダースさんが少し声ネタを少し追加した感じですね。 実際には、2010年ぐらいから自分の作品を作りたいなっていう意識がすごく芽生えていて、特に1枚目のアルバムで使ってるビートとか曲は、ほぼ2011年から2015年くらいに作った楽曲を集めたみたいな作品なんです。あの時期は、そういう風に他のアーティストの方々とも仕事をさせてもらいつつ、自分の作品を作る準備をしてた時期でした。

DARTHREIDER - SUPER DEAD

MPCを通した自己表現から生演奏との出会いまで

━━その頃から後のご自分のソロ、例えば第一作『Pushin’』の構想はあったのでしょうか? そうですね。普通にインスト曲半分、ボーカル曲半分のアルバム作りたいなっていうのは思っていましたが、自分の作品を作りたいという思いが芽生え始めたのも、自分でMPCを叩くようになったからかなと。他のアーティストのためのプロデューサーというよりは、どちらかといえば自分も表現したいものがあるという意識が、MPCでライブし始めてから芽生えました。 ━━大学の卒業旅行で行ったニューヨークのストリートでMPCを叩くパフォーマンスをして、それをYouTubeで発表したのが2013年ですね? あの動画がきっかけで、2014年とか15年ぐらいにはヒップホップのイベントだけでなくバンドのイベントにも呼んでもらえるようになり、バンドの方々とも知り合えるようになりました。その流れで今のレーベルに誘ってくださったA&Rの方やAlfred Beach Sandal(北里彰久)さんとも出会って制作が始まったので、あの動画は大きなきっかけです。 Alfred Beach Sandalさんと作った最初の曲は“Soulfood“ですが、生楽器でガッツリ歌える方と一対一で作るっていうのは初めてで、僕の家でずっとセッションしながら作ったこともあり、トラックで生楽器を使うことへの興味は強くなりました。それまでは、本当にサンプリングでしか作っていなかったので、サンプリングした音も楽器の音として捉えていなかったんですが、「こういう風に実際の楽器を弾いているんだ」とか色々垣間見えて、すごく自分の世界が広がった感じがしました。 ━━例えば、今回のEP『Contrast』から先行リリースされた楽曲”Conflicted”という単語の意味はせめぎ合うこと、ですよね。タイトルを見たらもちろんですが、見なくてもドラムやパーカッションがまずあって次にどの楽器の音がどのように鳴るのか、聞いていくと感情が浮かびそこに個性が響きます。それは最初期の音源からも感じ取れ、2010年代半ばにおいて言えば、STUTSさんはもちろんのこと、同世代のJJJさんなどのプロダクションを初めて聞いた時も同様に、その個性の表れに驚きました。こうした個性は長い時間費やしての作業のなかで徐々に培われていったものなのでしょうか? そうなのかなと思います。(基本的なビートの)ループを組んで「これ気持ちいいな」って思えるようになったら、音を重ねていき、ある程度のところまでいったら一旦ちょっと寝かせて、また別の日に聴いてみる。これいいループかもって思うものができたらそれで終わり、次の日に聴いてそれが膨らませられそうだったら、膨らませてみる。寝かせて作り直して、というプロセスを繰り返すことが多いです。僕自身「単純にいいな」と感じるものが個性になっていると思います。

STUTS – Conflicted

━━2016年にリリースされたファースト・アルバム『Pushin’』のタイトルの現在進行形の動詞は何よりもまずMPCという機材のパッドを叩くことが思い浮かびますが、“押していく、プッシュしていく”という気持ちや行為にも繋がり、2年後にはセカンド・ソロ・アルバムとしてよりカラフルな『EUTOPIA』がリリースされます。STUTSさんのビートとトラックは、例えば、感情を揺さぶるようであっても、ただ寂しくメランコリックなのではなく、鼓舞していく、奮い立たせていくように感じます。 そう感じてもらえて嬉しいです。 ━━それはSTUTSさんが音楽に求めていることと関係があるのでしょうか? 関係あると思います。トラック作る時、辛いこととか悲しいこととかあったりした時に、ビートを作ったりして、その感情を消化していったみたいなことが何回もありましたし。ビート作っていない時でも、音楽を聴くことで、同じように消化させていった経験が何回もあったので。そういうものが自ずと自分が作るものにも現れるようになったのかなと。実際に作っていても、結構、感情的になってるかもしれないです。別にその日に何かがあったっていう訳じゃなくても、前にあったことだったりとか、今後のことだったりとか、色々なことを考えながら感情的になってそれを消化していくことはあります。 ━━例えば、怒りの感情があってビートを作ったりとかもあるんですか? 怒りの感情で作る時は、たまにあるかもしれないですね。まさに“Furious”とか。あと、そうですね“Pushin’”も……。でも、怒りではないかな。やっぱり怒りの感情はあんまりそこまで多くないかもしれません。どっちかっていったら、怒りというよりは、なんて言ったらいいかな、難しいんですが、激しい感情。誰かに対して怒ってるみたいな表現は無いかも知れない。怒ってるとしても、自分だったり。自分じゃないにしても、理不尽なことにだったりとか。でも基本的にネガティブなものをあまり作りたくないなという気持ちがあるので、怒りの感情100%で作った曲はないと思います。 ━━もう一つ、直接、社会のことには言及されませんよね? 自分の作品として出すとしたら、あまり具体的にならず、ある程度の抽象性は残しておきたくて。そのスタンスは人それぞれだと思いますし、社会のことに言及した曲で好きな曲もたくさんあるのですが、自分の作品に関してはあまりそういう現実的なものをそこまでは入れたくないというか、意味を限定させたくないという思いがあります。それもあって社会批判とかを具体的にした曲などは、あまり作っていないのかもしれません。 もっと内面の話というか、もうちょっと自分ごととして感じられるようなことを表現したいのかな……。ごめんなさい、説明するのが難しいんですけれど……。内面の心の動きに、社会的なことが影響するってことは全然あるんですが、音楽を直接社会的なことに結びつけるより、一回自分を通して、自分の内面の感情を音楽に反映させているという感じだと思います。 ━━2017年からはクライアントがあってのコマーシャルな仕事が増えてきますし、2018年前後は、まずは星野源さんの『POP VIRUS』への参加、そして第69回紅白歌合戦のグランドオープニング映像の音楽も担当なさっています。 星野源さんの作品にはいちミュージシャンとして、打ち込みの音を生で演奏するドラマーとして楽曲に参加させてもらったって感じですが、あの経験はとっても大きかったなと思います。やっぱりそれまでバンドの中に入って曲を作ることを一回もやったことなかったので、「みなさんの演奏が合わさったら、こういう音像になるんだ」と。それはまた全然違う経験で、そういうのがすごく肌で感じられたっていうのは、めちゃくちゃ大きな経験でした。

星野源 – Pop Virus

━━中学生の時に1人でトラック制作を始めた少年がビートを通じてまずは楽器を弾くミュージシャンと相対して音楽を作る経験をした後、次には、バンドやセッションは人間同士の音楽を通しての関係だと思いますが、そういう場へ辿り着く、というようにやや図式的に理解してしまいます。バンドに多幸感みたいなものはあるのでしょうか? 多幸感も大きいんですけれど、それよりも今までに経験したことがない感覚が大きいです。こうやって自分が聴いていた音楽って出来ているのだという感覚と、自分がその一部になってるみたいな、とても新鮮な感覚でした。一人でビートを作っているのとはだいぶ違う感覚でしたね。

STUTS

作品ごとに浮かび上がる「ヒップホップを知ってほしい」というポジティヴな内面

━━『Eutopia』の制作は、内面的にもファーストとは異なった時期に制作されたといえるでしょうか? 『Pushin’』は心境的にもそれまでのベストアルバム的な感じというか、一個の作品というより、それまでに出来たいいものをまとめたみたいな感じです。2枚目はまず“EUTOPIA(実在するユートピア)”というテーマを思いつくきっかけになった曲が出来て、このテーマで作ろうという感じで進めました。だから、『Eutopia』からが本当のアルバム作りだったのかなっていう感じです。 ━━ユートピアは実在するのだというテーマというか、確信ですが、それは音楽と結びついた確信なわけですよね? 今回の『Contrast』にもそれは浮かび上がり表れていると感じます。 ありがとうございます。良かったです。辛い時があってもやっぱり音楽で違う世界に行ってたみたいな原体験があったので、自分が音楽作る時にもそう考えながら、そういう感覚になりながら作っているところがあるかな、と思います。 ━━本作『Contrast』の前には、コマーシャル、リミックス・ワーク、映画音楽に並んで、BIMさん、RYO-Zさんとの”マジックアワー”がありました。マジックアワー”は、RYO-Zさんというヒップホップにハマったきっかけにもなった方と曲を作らせてもらったので、リスペクトとオマージュを込めたものをという気持ちがまずあって、それに今っぽいヒップホップな感じを混ぜたいと思って。やっぱり、もっとみんなヒップホップを好きになったらいいのに、という気持ちがすごくあるんです。 本当にそれはずっと思っていて、そこに少しでも、自分がいい影響を与えられる存在になったらなっていうのは思います。そんなのおこがましいんですけれど。ちゃんと格好いいヒップホップが、もっと日本にも浸透して、みんな聴くようになったらいいのになっていう気持ちは、音楽を作り始めた時からある気持ちかもしれません。 ━━最後に今回のEP『Contrast』について伺います。ここでは色々なチャレンジをなさっています。参加アーティスストは『Eutopia』から高橋佑成さんのようなミュージシャンの方々、SUMINさん、鎮座DOPENESSさん、Daichi Yamamotoさんといったゲストですが、数が多いとは言えませんが、いずれも大変自分の世界を持った方々で興味深い選択だと思います。そして、全体として、もし世界にヒップホップという音楽がなかったら、STUTSさんの『Contrast』もなかったであろうという意味も含め、サウンドからヒップホップを感じます。 嬉しいです。自分が作っている感覚としてはずっとヒップホップを作っているっていう感覚なんですけれど、今回は確かに4つ打ちっぽい曲とかもあるので……。『Contrast』は、やはり、普段生活している上で色々なことがあってそう感じることも多く、“境界線”や“境界”ということをテーマに作りたいなと思っていたんです。 当たり前のことなんですけど、自分の感情が動く時のことを考えても、自分の中に色々な自分がいたり、同じ場で生活している人たちでもそれぞれで見えている世界が本当に違ったり。そういうテーマについて考えることが多かったんです。でも、境界を英語にすると”Boundary”とかはっきりと分け隔てる壁みたいなイメージになるので、それとは違うなと思って、”Contrast”と名付けました。この単語が一番イメージに合ったので。

STUTS - Mirrors feat. SUMIN, Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS

━━今回のEPで新たにチャレンジされている点でいえば、STUTSさん自ら歌とラップも披露されていて、私は坂本龍一さんの初期の作品でのご自身のヴォーカルが好きなのですが、個人的にはそれを思い出したりしました。 ありがとうございます。昨年秋くらいから自分が歌った楽曲を試しに色々作っていて、その中から今回の2曲が産まれたんです。できてから1ヶ月くらいは誰にも聞かせられなかったのですが、徐々に友達に聴いてもらったりしてこれなら発表してみてもいいのかもと思いはじめて。自分では未だに客観的には聴けないんですが、結果、パーソナルな面がすごく強くなったミニアルバムかなと思っています。そういった意味でも今までの作品とは違うと思います。今までの作品は、プロデューサーとしての自分が作品を客観的に見ているという感じだったのですが、今回は作品と自分との距離が近くて客観的に見られない、そんな感じがすごくあります。 今回の作品は、今のタイミングでもっとプロデューサー的なものを作った方が良かったかもしれないとは思いつつ、これを作らずにはいられなかったという感じなんです。その理由になった大きな心境の変化っていうのはなんだろう……。今まで挑戦してみたかったけどできなかったことが、色々な方々と曲を作らせてもらった経験から、色々なことを吸収させてもらったおかげで形にできるようになったかもしれないなって思った……、だからこそ、やってみたって感じです。そういったものを今回ミニアルバムという形でまとめ上げられたのは良かったのかなと思います。 ━━30年後も自分が生きていたら(笑)、愛聴していると思います。今日は本当にどうもありがとうございました。

STUTS

Text by 荏開津 広 Photo by Yuki Aizawa

STUTS
STUTS 1989年生まれのトラックメーカー/MPC Player。 2016年4月、縁のあるアーティストをゲストに迎えて制作した1stアルバム『Pushin’』を発表し、ロングセールスを記録。 2017年6月、Alfred Beach Sandalとのコラボレーション作品『ABS+STUTS』を発表。 2018年9月、国内外のアーティストをゲストに迎えて制作した2ndアルバム『Eutopia』を発表。 現在は自身の作品制作、ライブと並行して数多くのプロデュース、コラボレーションやCM楽曲制作等を行っている。

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RELEASE INFORMATION

STUTS

Contrast

2020.09.16(水) STUTS PECF-5004 Atik Sounds Atik Sounds/SPACE SHOWER MUSIC ¥2,000(+tax) 購入・ダウンロード・ストリーミングはこちら

EVENT INFORMATION

STUTS From Atik Studio

2020.09.17(木) ゲスト:武嶋聡 2020.09.24(木) ゲスト:北里彰久 / 鎮座DOPENESS 2020.10.01(木) ゲスト:coming soon 視聴はこちら

STUTS

STUTS "Contrast" Release Live

出演:STUTS with 仰木亮彦 (Gt), 岩見継吾(Ba), 吉良創太(Dr), TAIHEI(Key) LIVEWIRE 配信ライブ 2020.10.26(月) OPEN 16:15/START 17:00 見逃し配信: 2020.11.02(日) 23:59まで TICKET: 2020.11.02(日)21:00まで ADV ¥2,000 DOOR:¥2,500 TICKET:LIVEWIRE

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2020.10.17(土) 名古屋 JAMMIN’ 1公演目 OPEN 16:15/START 17:00 2公演目 OPEN 19:45/START 20:30 ADV ¥3,900(1ドリンク別) TICKET:チケットぴあ 2020.10.18(日) 大阪 LIVEHOUSE ANIMA 1公演目 OPEN 16:00/START 16:30 2公演目 OPEN 19:30/START 20:00 ADV ¥3,900(1ドリンク別) TICKET:チケットぴあ 2020.10.26(月) 東京 LIQUIDROOM OPEN 18:30/START 19:30 ADV ¥4,200(1ドリンク別) TICKET:チケットぴあ 詳細はこちら

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Get To Know Vol.4 The Ghost

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Get To Know vol.4

不定期にいま気になるレコードショップへお邪魔し、店主へ直接はなしを聞きにいく企画「Get To Know」。 第4回目はドイツ・ベルリンThe Ghost(ザ・ゴースト)へ。 3月中旬、突如訪れた”ロックダウン”という前代未聞の事態。”自由”の象徴のような都市ベルリンから音もカルチャーも忽然と消えた瞬間だった。4月末にはロックダウンは解除され、人々の顔にも笑顔が戻り、一見すると街は平穏に戻ったように思える。しかし、”ニューノーマル”と呼ばれる日常には以前のようなどこまでもクレイジーなアンダーグラウンドカルチャーはほんの一部にしか存在しない。 ベルリンのダンスミュージックシーンの未来は一体どうなってしまうのか? DJとして多忙なスケジュールをこなす合間で、70年代の古いメルセデスのバンで移動式レコードショップを運営してきた”The Ghost”のJosh TweekJames Creed。今年は<Glastonbury Festival>への出演も決まっていたという2人に、アーティストとして、そして、レコードショップのオーナーとして現在の心境を聞いた。

「The Ghost」とは? Josh TweekとJames Creedから成るイギリス人DJユニットの名前でもあり、2人が運営する移動式のレコードショップでもある。レコードコレクターだった2人が、ある日ストリートで古いメルセデスのバンを発見した時にアイデアが思い付き、2015年からスタート。Webサイトは存在せず、Facebookとインスタグラムにて不定期で情報が公開される。コワーキングスペース“Betahaus”の駐車場やベルリン有数のクラブ“Club der Visionaere”(通称cdv)やフリードリヒスハインにあるアーティストスタジオの駐車場などで、オーナーの許可を得て不定期に営業を行ってきた。不定期営業で場所も変わるため、自ら”POP-UPストア”と呼んでいたが、コロナ禍の現在は、ノイケルン区のBetahausの駐車場のみで営業中。Nina Kraviz、Zip、Ben KlockといったベルリンのトップDJやヴァイナルディガーたちからも一目置かれている究極の“レコードオタク”である2人が選ぶお宝が詰まったレコードショップである。
Get To Know vol.4

Interview: The Ghost(Josh Tweek & James Creed)

Get To Know vol.4
James Creed(左) Josh Tweek(右)

━━ベルリンは3月中旬から4月末までロックダウンになりましたが、「The Ghost」はいつから営業を再開しましたか? James Creed(以下、James) 7月からだよ。それまではロングバケーションみたいだったね。どこにも行ってないけど(笑) ━━7月の営業再開まではどうしてたんですか? 当然ながらレコードショップだけでなく、DJも出来ない状況でしたよね? Josh Tweek(以下、Josh) そうだね。まず、決まっていたDJのスケジュールが全部キャンセルになったよ。今年の夏はとにかく忙しくなる予定だったんだ。フェスや新しいクラブへの出演も決まっていたからね。何より残念だったのが<Glastonbury Festival>だよ。出演が決まっていたのにコロナの影響で開催中止になったからね。 ━━えーっ!!<Glastonbury Festival>!!それは残念過ぎますね…… James 本当に残念だよ!! とても楽しみにしていたからね。でも、ロックダウン前はとにかく忙しくて、毎週末どこかでDJをしているという生活だった。それがなくなってからは週末の過ごし方がガラリと変わったよ。 ━━具体的にはどんな風に変わったんですか? James これまでみたいに週末に仕事をすることがなくなって、自分の趣味の時間になったんだ。ヨガやエクササイズをしたり、元から好きだったバスケットボールやフリスビーをやったりね。 Josh そうだね。週末の過ごし方は明らかに変わったよ。DJがないということはその分の収入もないということだから、少ない予算で生活することを覚えたんだ。これまでみたいにレコードを買い漁ることもなくなったし、好きな古着も買わなくなった。今もまだ節約生活を学んでる最中だし、このニューライフをポジティブに捉えてるよ。ネガティブにならないようにモチベーションをキープしてるかな。ガールフレンドと過ごす時間も増えたし、悪いことばかりではない。 James いつも同じ服を着てるよ(笑)

Get To Know vol.4

━━ベルリンに関して言えば、クラブのガーデン(オープンエアー)のみでパーティーが再開されていますが、DJスケジュールの方はどうですか? Josh うーん、イリーガルなパーティーは行われたりしてるけど、やっぱりそういうのはクオリティーが低いよね。出演回数の多かったHoppetosseは営業を再開できていないし、系列店のCDVはDJも入れて営業しているけど、あくまでもバーとして営業しているから、踊れないし、マスク着用の決まりもあるよね。 James 一番最後にDJをしたのが、ロックダウン前のプラハだったかな? それからもうずっとギグをやってないよ。8月にオープンエアーのイベントがあったけど、それもキャンセルになったし。だから今は、レコードショップの営業を再開して、レコードと一緒にオリジナルTシャツの販売も始めたんだ。 ━━Facebookで見て気になってました!自分たちで作ってるんですか? Josh そう。自分で絵を描いて、シルクスクリーンでプリントしてるんだ。1枚30ユーロでサイズもカラーもいろいろあるよ。

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━━なるほど。「The Ghost」の告知にはいつもかわいくてユニークなお化けといろんなキャラクターのイラストが登場していますが、Joshの手描きだったんですね。今みたいな時代には大切なツールの一つだと思いますが、オンライン販売の予定はありますか? James Tシャツだけやる予定でいるよ。レコードはやっぱり直接来て買って欲しいからやるつもりはないかな。 ━━1枚しかないお宝が多いですし、中古がメインだと何かとリスクがありそうですよね。バンに積んでる以外の在庫も豊富にあるでしょうし、オンラインに移行するのは大変そうです。バンには何枚ぐらいのレコードが積んであるんですか?ジャンルはダンスミュージックが中心ですよね? Josh バンに積んでいるのは大体1200枚ぐらいだけど、倉庫には5000枚以上あるから、いつもそこから選んで運んでいるんだ。だから毎回同じじゃないし、直接店に来て僕たちと話をしたり、試聴してから買って欲しいよね。取り扱っているのは全てダンスミュージックで、特に90年代のハウスやテクノが充実していて、掘り出し物を発見出来る可能性も高いよ。

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━━そんな今日の一押しの一枚を教えてもらえますか? Josh うわー、悩むなあ。ちょっと時間もらってもいい? ━━もちろんです(笑)以前は、クロイツベルク区のBetahausの駐車場でも営業してましたよね? James あそこはビル自体が改装工事になって、Betahausもないからもうやってないんだ。今はほぼ毎週金曜日の大体午後2時ぐらいからノイケルン区のBetahausの駐車場で営業してるよ。 ━━そうだったんですね。一押しの一枚を選んでもらってる間にお聞きたいんですが、コロナによって危機的な状況に追い込まれているダンスミュージックやクラブカルチャーの未来をとても心配しています。2人はその辺についてどう考えていますか? James 同じく心配しているよ。残念ながらいくつかのクラブはこのまま営業出来ずに閉店してしまうと思うんだ。オーガナイザーたちはクラブでパーティーが出来ないから、野外で会場を探し出しているよ。だから、来年はもっと野外パーティーが増えるんじゃないかな? でも、もう誰にも分からないよね。とにかく、来年の4月か5月にはクラブやフェスも元に戻って欲しいと願っているけど、フィンガーズ・クロス!! もうそれしか言えないよ。 Josh フィンガーズ・クロス!! 本当にそれだけだね。ただ、これからは、スターアーティストが毎週末飛行機に乗ってどこかに飛んで、高額なギャラをもらってプレイをして、5つ星ホテルに泊まるって、そういったケースが減っていくと思うんだ。ダンスミュージックシーンももっとサステナブルになっていくと思ってるよ。 ※ ファインガーズ・クロス・・・ 人差し指と中指をクロスさせる指のサイン。「Good Luck(幸運を祈る)」という意味がある。

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━━本当に今後どうなってしまうのか誰にも分からないし、フィンガーズ・クロスしかないですよね。パーティーはないですが、クラブを使った無観客でのライブストリーミングが頻繁に行われていますが、それについてはどうですか? James 良い質問だね!ライブストリーミングには賛成だよ。オーディエンスがいない分、リラックスして出来るし、プレイに集中出来るんだ。 Josh そうだね。少し前にHoppetosseでやったんだけど、すごく良かったよ。オーディエンスがいることはもちろん良いけど、フロアーはいつも熱狂的でクレイジーだからプレッシャーを感じてしまう。だから、無観客でやるのはスタジオにいる気分でリラックスしてプレイ出来るし、自分たちを知らないリスナーにも良いプロモーションになると思った。 ━━オーディエンスがいないと意味がないといったストリーミングを嫌うアーティストもいる中で、2人は賛成派側なんですね。私はどうしてもあの熱狂的なフロアが恋しくなってしまうので、一刻も早くコロナウイルスが終息して、クラブでのパーティー現場が復帰してくれることを願っています。 James&Josh それはもちろん僕たちも同じだよ。だから、今はレコードとTシャツを販売して、ネガティブにならないようにモチベーションをキープしてるし、僕たちにはこのレコードショップがあって本当に良かったと思ってるよ。 ━━では、最後に「The Ghost」が今おすすめする一枚を紹介して下さい。 Josh 日本人ハウスDJのTakeshi Fukushima“Kind Of Deep”をおすすめするよ。フロアーを盛り上げる際のウォームアップに最適な心地良いグルーヴがいいね!

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━━本日はありがとうございました!!

実は、10月にオーストラリア、韓国、そして日本を回る約2週間のツアーの話があった「The Ghost」。残念ながらエージェントからの連絡は途絶えたままで、いつになるのか? 実施されるのか? 日本でのツアーを切に願っていた2人だけに、まさに、フィンガーズ・クロスの状態である。 DJギグがなくとも世界のアーティストたちはリリースを止めることなく、レコードを買うことも止めないだろう。室内が危険なら屋外でパーティーを、自宅で安全に音楽を楽しむならライブストリーミングを。人間は環境に順応することに長けている生き物だというが、深刻な状況の中で、次々と生まれるアイデアは私たちにとって音楽はそれほどまでに必要不可欠であるという事実なのだ。 今後も移動可能な範囲で、世界に散らばる素晴らしいレコードショップの情報を追っていきたい。

Text by Kana Miyazawa Photo by Hinata Ishizawa

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ギターの“鳴り”は材質で決まる。ギタリスト・関口シンゴ(Ovall)が魅了された吉野スギのギター。

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関口シンゴ 奈良の木のこと
樹齢200年以上の奈良県産の吉野スギを10年以上も天然乾燥させた柾目板。「密植・多間伐」という独自の育林技術が施されたきめ細かい木目は、まるで「自然界のアート」とでもいうべき美しさ。吉野杉クラシックギターは、そんな板材を表板に使った特別なギターです。製作したのは、奈良県・御所市柏原にある「丸山手工ギター工房」の丸山利仁さん。県の協力で板材を入手し、およそ2ヶ月半かけて完成させた“200年もの”のギターは一体どんな音がするのでしょうか。 奈良県産優良スギ材を用いたギターについて そこで今回は、ギタリストの関ロシンゴさんにこの吉野杉クラシックギターを試奏していただきました。関ロさんは、自身のバンドOvallやソロ名義での活動のほか、あいみょんや藤原さくらのプロデュース、米津玄師のニューアルバム『STRAY SHEEP』での客演など、ジャンルを超えた幅広い活動で知られるアーティスト。ここ数年は自身のSNSやYouTubeで定期的にギター演奏を披露、国内外問わず熱心なフォロワーを着実に増やし続けています。 ギターを選ぶときは、その材質にもこだわるという関口さん。吉野杉クラシックギターの弾き心地はもちろん、材質によるギターサウンドの違いなどについてお伺いしました。

インタビュー:関口シンゴ(Ovall)

関口シンゴ 奈良の木のこと ──まずは、吉野杉クラシックギターのファーストインプレッションはいかがでしたか? ケースを開けたときに、スギの木の香りがフワッと漂ってきました。そこでまず気持ちがリラックスしました。そして、この見た目。吉野スギを使っているのはギターの表面板だと思うのですが、びっくりするくらい木目がきめ細かいんですよ。僕が持っているスペイン産のクラシックギターよりも、木目が細かく整然としています。 ──吉野スギは「密植」や「間伐を繰り返す」といった独自の育林技術が施されており、何世代にもわたり大切に育てられた木々には「節」がなく、まっすぐで年輪の幅も狭くて均一なものが多いそうです。 やっぱりそうなんですね。クラシックギターのボディの木材にはスギかマツを使うことが多く、マツのパキッとした硬質なサウンドに比べると、スギはもっとまろやかなんです。でも、この吉野スギはまろやかさの中にも「ヌケ感」がしっかりとあって、ボディの鳴りもすごく深い印象です。それは抱えて弾いたときに、胸に伝わってくる振動でも分かります。 ──実際の弾き心地はいかがですか? とてもいいです。ボディは若干小ぶりで、僕が持っているクラシックギターよりも、ひと回り小さくて収まりがいいです。持ちやすい上にちゃんと鳴ってくれる。鳴らないギターって、本当に鳴らないんですよ(笑)。クラシックギターはボディからヘッドに至るまでほぼ木で出来ているので、材質はとても重要なんです。木材のクオリティで音がほぼ決まるといっていい。もちろん、作り手さんの技術も当然影響しますが、根本的な鳴りの深さは変えることができないですからね。 関口シンゴ 奈良の木のこと ──そもそも、関口さんが材質にこだわるようになったきっかけは? 高校生の頃からお世話になっていた、ギターのリペアマンのおじいちゃんがいて。「ギター界のブラックジャック」と呼ばれていました(笑)。ものすごく辺鄙な掘建て小屋のようなところで作業をされていたのですが、そこに行くと修理待ちのギターがたくさん並んでいるんです。しかも、それがトップ・ジャズ・ギタリストといわれる渡辺香津美さんをはじめ、スピッツやいきものがかりなど錚々たる面々のギターなんです。 ──へえ! その方に僕が高校生の頃からかれこれ20年くらいお世話になっていました。行くたびにいろんな話を聞かせてくださったんです。特に印象的だったのは、「ギターは生き物だ」とおっしゃっていたこと。木なので当然水分が含まれていて、新品のギターはその含有率がすごく高いため「鳴り」も弱いらしいんですよ。その水分が、弾きこんでいくうちに振動でどんどん抜けて、乾燥してくるのだそうです。 ──長年、弾きこまれたギターの「鳴り」が良いといわれるのは、ちゃんと理にかなっているんですね。ギターを「育てる」という感覚にもなりますね。 そうなんです。その話を聞いてからは、本当に練習をたくさんするようになりました。この吉野杉クラシックギターはすでに「鳴り」もいいですし、これをどんどん弾きこんでいったら、この先どんなに良い音になるのかとても楽しみですね。「育て甲斐」があります(笑)。 ──現在、関ロさんは、YouTubeの番組『Chill Guitar』や、ご自身のInstagramなどで定期的にカヴァー曲など披露されていますが、もしこの吉野杉クラシックギターを演奏するとしたら、どんな曲をカヴァーしますか? 実はもう、このギターで弾いた曲をアップしているんですよ(笑)。“Moon River”と“Don’t know why”をカヴァーしたのですが、やっぱりスタンダードな曲が映えますね。
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Chill classical guitar 🎸🌝 "Moon River"

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“Moon River”カバー動画
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Chill classical guitar 🌛 "Don’t know why"

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“Don’t know why”カバー動画
あとは”Over The Rainbow”なんか弾いても良さそうですよね。エレキギターやスチール弦のアコギでは出せない、細かいニュアンスが出せます。ちょっとした爪の繊細さはガットじゃないと出ないし、このボディだからこその繊細さをしっかり響かせてくれると思います。 関口シンゴ 奈良の木のこと 関口シンゴ 奈良の木のこと ──そもそもYouTubeの『Chill Guitar』は、どんなきっかけで始めたのですか? ギター動画をはじめたのが今から3年くらい前で。最初のうちは、「今日はコーヒーを飲みました」みたいな何気ない日常写真を上げていたのですが、「これって、一体誰が喜ぶのかな……?」と疑問が浮かんできて(笑)。イマイチしっくり来なかったんですよね。自分はギタリストだし、ギターの演奏を披露した方が喜んでくれる人もいるかなと思ったのが、今のスタイルになっていくきっかけでしたね。 ──反響はいかがでしたか? 動画と一緒にハッシュタグを付けたり、とにかく見よう見まねで続けていたら徐々にアクセスが増えていきました。特に海外のフォロワーが増えたのは驚きでしたね。『Chill Guitar』のフォロワーは10代の子たちも多くて、かなりマニアックなことを知りたがっているんです。ギターの材質もそうですし、弦やペグは何を使っているのか、ブリッジの材質は何か等々(笑)。その気持ちはすごく分かるんです。僕も10代の頃は、ギター雑誌を穴が開くほど読み込みましたからね、このギタリストはどんなギターを使っているんだろう?って。しかも、この動画をきっかけにOvallの活動や、僕のソロ活動を知ってくださる人もいたので、そういう意味でもやって良かったなと思っています。 関口シンゴ 奈良の木のこと ──関ロさんにとって、ギターの魅力とはなんでしょうか。 なんだろう……。とにかく、いつまで弾いていても全く飽きないんですよ(笑)。実は以前1年ほどクラシックギターを習っていたんですけど、そうするとまた新たな発見があるし、自分のこれまでのプレイスタイルにも大きく影響してくる。新しいギターやエフェクターを買ったときにも、そのワクワク感から新たなアイデアが湧いてきたり、それが次の作品に生かされたりするんですよ。もう無限に楽しめますよね(笑)。 ──最後に、この吉野杉クラシックギターをどんな人に勧めたいか教えてもらえますか? すごく弾きやすいので、初めてギターを手にする人にも向いていると思います。入門者向けの安価なギターだと、どうしてもそれなりの音しか出ないじゃないですか。そうすると、同じ「C」のコードを弾いた時の感動も違う。体に伝わってくる振動や、ボディの「鳴り」をちゃんと感じながら弾くことで、演奏のニュアンスも変わってくると思うんです。何より、弾いてて楽しいですよね。もちろん、上級者にも自信を持ってお勧めします。クラシックはもちろん、ボサノバっぽいのからマリアッチ、スパニッシュまでオールマイティに楽しめるギターですね。 関口シンゴ 奈良の木のこと
取材後に吉野杉クラシックギターを使って一曲演奏してもらいました。吉野杉クラシックギターのまろやかなサウンドと鳴りを体感してみてください。 Shingo Sekiguchi - Chill Classical Guitar with YOSHINOSUGI
関口シンゴ 奈良の木のこと

Text by Takanori Kuroda Photo by 古賀 恒雄

関口シンゴ 関口シンゴ(Ovall) ギタリスト/プロデューサー Ovallのギタリストとして、またソロアーティストとして国内外のフェスに出演。ジャズ、ソウル、ロック、ポップスなどを独自のセンスで解釈した音作りが世界中から賞賛される。 プロデューサー/ギタリストとして、あいみょん、矢野顕子、Chara、秦基博、坂本美雨、藤原さくら、さかいゆうなどのライブや作品に参加。 最新シングル「North Wing」が300万回の再生回数超え、またInstagramやYouTubeでほぼ毎日公開中の演奏動画が話題となっている。

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ありがとうノーラン!『TENET テネット』を心から楽しんだ映画ファンからの、大いなる賛辞と小さな不満

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TENET テネット

『ダークナイト』シリーズ(’05〜)、『インセプション』(’10)、『ダンケルク』(’17)などの作品で知られる人気映画監督、クリストファー・ノーランの最新作『TENET テネット』が9月18日に公開された。これまでも、ヒット作や話題作を連発してきたノーラン監督だが、今回も注目度はきわめて高い。テーマは「時間の逆行」。過去作でもたびたび題材として取り上げてきた「時間」をモチーフに、物理学者にアドバイスを受けながら練り上げられた脚本は、非常に魅惑的であると同時に、一度見ただけでは理解が困難な内容だ。こうした難解さが観客の興味をそそり、数多くのリピーターを呼び込んだ。主演に『ブラック・クランズマン』(’18)のジョン・デイヴィッド・ワシントンケネス・ブラナーマイケル・ケインといった、ノーラン作品の常連俳優も出演している。

クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』の最大の魅力

TENET テネット

2020年、多くの大作、期待作が公開延期となり、話題性に乏しいままずいぶん時間が経ってしまっていたが、ようやく映画館に活気が戻ってきたと実感できる『TENET テネット』の公開だった。9月19日に政府の定める入場制限基準が緩和され、これまで定員の半分以下しか入場できなかった映画館が全席で着席可能となったことも大きい。ひさしぶりに経験する満員の映画館での超大作公開とあって、劇場内に熱気が満ちているのが嬉しかった。次々と入ってくる観客、ぎっしりと埋まった客席、上映後にパンフレットを購入するため並ぶ人たちの行列、かつての見慣れた光景が戻ってきたのは思いのほか楽しく、自分が映画ファンであることをあらためて体感させてくれるイベントとなった。本作はIMAXスクリーンとの相性もよく、視聴環境にこだわりを持って映画館を選んだ観客も多かっただろう。『TENET テネット』の盛り上がりは、映画業界全体にとって明るいニュースであった。 思うに、クリストファー・ノーラン監督には、映画ファンにとっての一大イベントとなる作品を撮り、人びとを劇場へ呼び込む稀有な能力がある。『ダークナイト』(’08)しかり、『インセプション』(’10)しかり、好き嫌いは別にして映画館へ足を運ばずにはいられず、見終えた後にはさっそく感想戦を始めてしまうような「必修映画」を撮る能力があるのだ。多くの観客を物語に没頭させ、熱狂を生み出すのがノーラン監督の最大の力だ。誰もが彼の作品を気にしていて、映画館へ行かなくてはと思わせてくれる。今回の『TENET テネット』も同様に、斬新なアイデアをヒット作に結びつける手腕はみごとであり、本当に感服するほかない。音楽にせよ、本にせよ、受け手の好みが限りなく細分化していくなか、映画ファンにはこうした全員参加型のイベントが残っており、共通言語としての作品が存在するというのは大切なことである。こうしたイベントに参加できるのは、映画ファンならではのよろこびではないだろうか。

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『TENET テネット』のあらすじは複雑で、説明が難しい。とはいえ、理解できなくてもさほど楽しみを阻害しないため、あまり深く気にしなくていいのではないかと思う。劇場用パンフレットに書かれた公式の説明を要約すれば、あらすじは以下である。CIAエージェントの主人公、名もなき男(ジョン・デイヴィッド・ワシントン)は、未来からやってきた敵と戦い、世界を救う任務を命じられている。どうやら、未来では時間の逆行を可能にする装置が開発され、人や物が過去へと移動できるようになっているのだ。果たして主人公は、迫りくる第三次世界大戦を防ぐことができるか──。 劇中に数多く散りばめられた謎がわからないままでも、作品は十分にスリリングだ。また、初見ではわからなかった物語の構造が、二度目の観賞で浮かび上がってくるしかけも実にいい。SNSで盛り上がる謎解きや科学的解釈も含め、さまざまな角度から何度も味わうことができ、多くの人がつい参加したくなるイベントという側面からも大いに楽しませてもらった。観客へのサービス精神の旺盛さも感じられ、ノーランが人気監督である理由がよくわかるフィルムである。 どの作品にもキービジュアルや見どころを律儀に準備するノーラン監督らしく、公開前から話題となっていた、空港でジャンボジェット機が暴走するシーンなど「これがうわさの場面か」と感心させられてしまった。こうした大がかりな場面はなにしろ景気がよいし、見ただけで料金の元を取ったような気分になれるのが嬉しい。予算をかけた超大作ならではの楽しみである。劇中、ジャンボジェット機の爆破前には、登場人物が“ここからは少しドラマティックにやるよ”と親切なせりふで見せ場を予告するため、観客も「いよいよ壊すんだな、例のあれを」と心の準備が整う。ノーランは基本的に、大事なことはせりふで説明してくれるタイプの監督である。

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『TENET テネット』に見るノーランの「ブリンブリン」な欠点とは?

しかし、ここまで映画を満喫しておいて不満を述べるのは図々しいのだが、ノーランの手法には多少言いたいこともあるのだ。CGを嫌い、実写にこだわる彼は、これまでも大がかりな実写撮影を行ってきた。『ダークナイト』の病院爆破シーンでは本当の建物を壊しているし、『ダンケルク』では70年以上前に製造された実際の戦闘機を2機飛ばして撮影し、さらには5億円かけてレプリカを1機作成したという。何しろとてつもない規模である。こうした、ノーランの撮影にまつわる豪快な逸話はエスカレートし、映画製作のたびに新たなエピソードが追加されていった。しかし、彼の手法はややもすると、実写へのこだわりという域を超え、莫大な予算をかけたムチャな撮影が許されるヒットメーカーとしてのノーラン自身を誇示しているように見えてしまう。 前述した空港のシーンでも、暴走するジャンボジェット機や、車輪に巻き込まれて引きずられる自動車を眺めながら、「どれだけの費用がかかったのだろう」「こんな途方もない撮影が許される監督はなかなかいないぞ」と、映画の本質とは異なる部分で感心してしまったのも事実である。決してジャンボジェット機の場面が嫌いなわけではないし、盛り上がったことは事実なのだが、映画に感心しているのか、ノーラン監督の豪快さに驚いているのか、自分でもいまひとつ判別がつかなくなってくる。アメリカのヒップホップ業界では、いかにも高価そうなゴールドのネックレスや高級車を見せつける態度を「ブリンブリン」と呼ぶが、ノーランはいわば映画業界きってのブリンブリンな監督であり、そこに若干のエゴや品のなさを感じてしまうことがあるのだ。とはいえ、選ばれし映画監督が常軌を逸したムチャをする様子は見ていて楽しいものであり、またノーランの作家性の一部であるとも思うのだが。 一方、実写への拘泥、徹底したフィルム撮影主義など、ノーランが示すこだわりは、彼が潜在的に抱いている「映画的瞬間をつかまえる能力への不安」の裏返しであるようにも思える。だからこそ、彼の底抜けな予算の浪費にも拍車がかかるのではないか。この点、筆者はノーランを支持しているにもかかわらず意地の悪い言い方になってしまったが、あえて指摘させてほしい。観客に「これが映画だ!」と確信させるワンシーン、力強いショットを撮れるかどうかは、予算や機材、規模とは無関係ではないか。彼はなぜ、映画を撮るのにそこまででたらめなお金の使い方をするのだろうか。このノーランの浪費傾向は監督としてのキャリアを重ねるごとに強くなっていったが、彼と同い年の映画作家、たとえばポール・トーマス・アンダーソンM・ナイト・シャマランニコラス・ウェンディング・レフンといった1970年組はみな、規模や予算は小さくとも、観客の魂をわしづかみにするような映画的瞬間をモノにしている。こうして比較すると、ノーランがこだわる実写やフィルム撮影といった要素も、どこか枝葉末節に思えることがある。

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ノーラン作品の根底に通ずるテーマ「喪失感」

ここまでの記述、『TENET テネット』とノーランを愛していながら、彼に欠けている資質についての説明が長くなってしまい、たいへん申し訳ない。実際のところ『TENET テネット』にも終始夢中になり、ついに主人公が逆行時間に突入するクライマックス場面などあれほどに胸が高鳴り、熱く興奮したにもかかわらず……。むろん完璧な作者などいないのであり、ノーランのたぐいまれなる才能を認めた上で言うのであれば、製作費の使い方が派手になることで本質を見失いがちな傾向はあると思う。それでもノーラン作品から目が離せないのは、彼が描きつづける「喪失」の物悲しさにどうしても惹かれるからである。彼の映画に通底するのは、決して取り戻せない何かについての耐えがたい喪失感だ。『TENET テネット』は親友の喪失がテーマとなる。内容に触れてしまうため詳細は省くが、本作における主人公とニールロバート・パティンソン)との関係は非常に切ないものだ。ノーランはつねに、失われたもの、もう取り戻せない何かについて描き続けている。 過去作も同様である。『メメント』は、記憶を失ってしまう症状に悩む主人公が「たとえ忘れても、やることに意味がある」と決意するまでを描く。また、家族との別離がテーマとなる『インセプション』、戦地より命からがら撤退する軍人を描いた『ダンケルク』など、ノーランの作品には大きな喪失の感覚が刻まれている。「もう戻ってこない、それでも生きていかなくてはならない」という切ないまでの諦念があるのだ。それこそがノーラン作品の本質であり、爆破や謎解き、物理学やエントロピー理論といったこだわりを取り除いた後にも残る核心部分であると信じている。 こうしたモチーフがもっとも強烈に描かれるのが『インターステラー』における惑星探索の場面だろう。人間が移住可能な星を探して宇宙船で移動する主人公(マシュー・マコノヒー)は、ある惑星に着陸するが、ひとつ大きな問題があった。重力がとても強いその惑星ですごす1時間は、地球の7年に相当するのだ。探索に手間取った主人公がその惑星ですごしたほんの数時間のあいだに、地球では23年4ヶ月の時間が経ってしまっていた。主人公の父親は亡くなり、小さかった子どもは大人になり、結婚して孫まで生まれていた。そうした貴重な瞬間に一切立ち会えず、すべてを逃してしまった主人公は、地球から送られた23年分のビデオレターを見ながらひとり涙する。 この場面は「感動的」という文脈で語られることが多いが、冷や汗が出るような取り返しのつかなさ、決して戻ってこない大切な時間を喪失してしまった感覚は、見ていて怖ろしくなるほどだ。ほんの小さなミスによって20年以上の時間が失われてしまう展開はとても不安になる。『インターステラー』は見返すのをためらう映画である。自分自身もいままでの人生において、この主人公のように時間を虚しく浪費してしまったのではないだろうか? と考えずにはいられないからだ。ノーラン監督は、このように深い孤独や空虚を抱えた人物なのだろうかと感じる場面である。

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あるいは、こうした深い喪失感にはむしろ派手な爆発こそが似合うのかもしれないと『TENET テネット』を見て感じた。ノーラン作品の登場人物が抱える虚しさや無力感はあまりに大きい。一見、スパイ映画仕立てのスリルと躍動に満ちたアクション映画、という『TENET テネット』の奥にも喪失の感覚がある。確かに、生きることは失うことの連続だ。それであれば、せめて空港や病院ぐらいは派手に爆発させたくなるのが人情ではないか。単に暗くて地味な映画など、本当に陰鬱なだけである。いずれにせよ大切な相手は去り、貴重な時間は失われてしまったのだから、どうせなら思いっきりお金を使って、アメフトの巨大スタジアムを本当に爆破したり、戦闘機をIMAXカメラごと海に落下させたりしようじゃないか。そうでもなければ、悲しくてやっていられない。 ノーランが時おり表現する、どう受け止めていいか困惑するほど大きな虚無感について考えた時、その陰鬱さと反比例するような破壊の壮大さ、途方もない予算の使い方は、どこか最終的にうまい具合に辻褄が合って、観客にとって受け入れやすいバランスになっているのかもしれない。『TENET テネット』の圧倒的なおもしろさに打ちのめされながら、そう感じた。ノーラン作品はどれも喪失感と孤独に満ちているだが、迫りくる悲しみは大量の爆薬で景気よくぶっとばしてくれる。そこにこそ、彼の人気の秘訣があるのかもしれない。

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映画『TENET テネット』スペシャル予告 2020年9月18日(金)公開

Text by 伊藤聡

INFORMATION

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大ヒット上映中 監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン 製作:エマ・トーマス 製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ 出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. 詳細はこちら

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Glass Animalsインタビュー|メンバーの事故がきっかけ、彼らの”想い出”の回顧録となった新作に迫る

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Glass Animals

英国オックスフォード出身の4人組、グラス・アニマルズ(Glass Animals)による通算3枚目のスタジオ・アルバム『Dreamland』が8月にリリースされた。 「夢の国」と名付けられた本作は、バンドの中心人物であるデイヴ・ベイリー(Dave Bayley 以下、デイヴ)の個人的な体験をもとに制作された、「人生のノスタルジックな回顧録」である。きっかけとなったのは、2018年にバンドのドラマー、ジョー・シーワード(Joe Seaward 以下、ジョー)が遭遇したバイク事故。一時は生死を彷徨うような深刻な状態となった時に、デイヴが感じた心境や、そこから思い出された数々のエピソードが歌詞の世界に落とし込まれている。 チルウェイヴ、サイケデリック、ドリームポップなどのエッセンスが散りばめられたサウンド・プロダクションはもちろん、画家のデヴィッド・ホックニー(David Hockney)の絵画をオマージュしたノスタルジックなアートワーク、フロッピーディスクやVHSを用いたパッケージ、AR技術を活用した公式サイトのインタラクティヴな展開など、アルバムの世界観をトータルで見せていく手法もユニークだ。 夢見心地なサウンドを奏でる一方、歌詞ではジェンダーDVなどシリアスなテーマにも挑み、“Heat Waves”のMVでアフターコロナの世界をユーモアと皮肉を交えて映像化してみせたグラス・アニマルズ。そうした試みを経た今、彼らはこの世界をどのように見据えているのだろうか。デイヴ・ベイリーに話を訊いた。

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Photo by POONEH GHANA

Interview: Dave Bayley(Glass Animals)

──今作『Dreamland』を作ろうと思ったきっかけや、テーマが決まるまでの過程について教えてください。 まずは、インタビューの機会をありがとう。今作のテーマは「想い出」で、それは2018年にバイク事故で生死を彷徨ったジョーの入院中に浮かんだものなんだ。僕らはジョーが回復して無事に生き続けることができるのかについて全くわからなかった。実際のところ、ジョーの状況はかなり難しい感じだったから、僕らは残りのツアー日程を全てキャンセルしたんだ。バンドの活動予定も立たず、今後の楽しみもないまま、ある日、僕は宙ぶらりんの状態にある自分に気づき、昔の想い出を回顧するようになった。「一体ジョーはどうなるんだろう?」と考えるともう怖くて、病院の待合室では眠れなかったよ。 ──そうだったのですね。 そんな状況に置かれると、脳内が混乱して変な経路へ迷い込み、ここ数年間ずっと隠れていて見えていなかったこと、忘れかけていたことを思い出すようになるんだ。二度と思い出すことはないと思っていたようなことを、新たな視点から見ることにもなったよ。その後、ジョーが良い方向に回復すると分かった時点で曲を書きはじめた。僕の頭の中にあった「想い出」の数々を集め、アルバムとして録音できることに気づいたんだ。 ──サウンド面では前作『How To Be A Human Being』に比べ、よりシンセが大々的に導入され、トラップやEDMなどダンスミュージック、ヒップホップからの影響がさらに強くなったイメージです。 昔からダンスミュージックは大好きで、僕の音楽制作の原点でもある。実は以前ロンドンの「ファブリック」というクラブでDJをやっていたこともあるんだ。DJの仕事を終えて遅い時間に帰宅すると、寝付けないことがあって。そんな時は、ガレージバンドをやっていた時に楽器と一緒に使用していた古いコンピューターで音楽制作をしていた。当時作っていたのは、自分がDJ中にかけられるような、全てシンセサイザーのみによるダンスミュージック。子供時代から大好きだったヒップホップからの音楽的影響も混ざった曲だったね。

Glass Animals – Dreamland

──具体的にはどんなアーティストが好きだったのですか? 子供の頃に好きだったプロデューサーはマッドリブ(Madlib)で、他にはティンバランド(Timbaland)ザ・ネプチューンズ(The Neptunes)。僕は13歳までアメリカのテキサス州にある田舎町で育ったから、地元ではカントリーミュージックをかけるラジオ局とヒップホップ・ステーションの2局しかなかったんだよね。ヒップホップを聴いている時の、独特の感覚がとても好きだった。あの頃はまだ幼なかったから歌詞の意味を理解していなかったけど(笑)。ベースとドラムスのサウンドが最高だと思っていたよ。 ──そうした体験は、今作にも生かされていると思いますか? 今回のアルバムでは、ほぼ全曲でメロトロンとストリングスを使用しているんだけど、ストリングスの方は再サンプリングしているから、若干オールドスクールな音に仕上がっているね。それと、アルバムのテーマが「想い出」ということもあって、子供時代に愛聴していたアルバムを聴き直したりもしたね。子供の頃は主にうちの母が収集していたレコード、例えばビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)、ザ・ビートルズ(The Beatles)、ニーナ・シモン(Nina Simone)、ボブ・マーリー(Bob Merley)、フランキー・ヴァリ(Frankie Valli)などを聴いていた。 ──アルバムのアートワークはデヴィッド・ホックニーの絵画『A Bigger Splash』のオマージュで、リトル・アン(Little Ann)の楽曲”Deep Shadows”をサンプリングした”Hot Sugar”の歌詞にも、ホックニーの絵画を意味する《pool painting》というフレーズが挿入されています。 子供の頃、うちの父が壁にホックニー作品のプリント画を飾っていて、僕はその絵の雰囲気に当時からずっと魅了され続けてきた。スピード感あるものを捉えるのに数週間かけたという手法も好きなんだよね。僕のアルバムも同じ。一瞬の音や曲を手がけるのに数週間かけた。あっという間に起きたことを、それから何年も経った後にじっくり熟考して楽曲を制作したわけだから。 アートワークのアイディアは、ホックニーの絵にひねりを入れつつ最も現代的な技術を駆使したんだ。僕は拡張現実(Augumented Reality)3Dアニメーションに魅せられていて、この2つは今後の未来を担っていくと思う。リアルな感じでありながら、まるで夢の中にいるように微調整できるのがいい。例えば、「想い出」を微調整していくようにね。それと、CDケースは「小さなオブジェ」としていろんな工夫ができる。これって人間の人生にも強く関係しているよね。小さな出来事が自分の人生に大きな影響を与えたりするわけだから。

Glass Animals
『Dreamland』Artwork

──とても興味深い話です。 通常の2D平面のアートワークでは古臭い感じがするし、大半の人達にとって今やアルバムのアートワークはストリーミングのプラットフォーム上で見る小さなサムネイルとなりつつある。僕は自分のアートワークをそういった枠から超越させたものに発展させたかった。僕らのサイトがまさにアートワークなんだ。インスタグラムとQRコードで読み込めるARのフィルターをみんなに使ってもらうことで、誰もがこのアートワークをリアルな世界でも楽しめるようにしてある。 ──そのサイトのデザインもそうですが、VHSやフロッピーディスクでのリリース、着信音がついてくるカセットなど、2000年代初期を思い起こさせるパッケージがとても印象的です。 あははは。僕は2000年代初期に育った世代で、主に従兄弟からのお下がりの服やおもちゃを愛用していた。あの時代に登場した商品すべてが、このアルバムのテーマである「ノスタルジア」を象徴している。こういったデザインが場面を設定し、音楽そのものに背景や文脈を与えるからね。何より、こういったアイテムを作ることは純粋に楽しいんだよ(笑)。 ──収録曲についても聞かせてください。“Tangerine”はシンガー・ソングライタースターラー(Starrah)との共同作曲ですが、具体的にはどのように行われたのでしょうか。 彼女とは“Tangerine”の前にも数曲一緒に楽曲制作をしてきた。グラス・アニマルズじゃなくて、他のプロジェクトだけどね。今回グラス・アニマルズの新作に取り掛かった時に彼女に参加依頼したところ、「Yes!」って言ってくれたんだ。 スターラーは、数多くのアーティスト達に素晴らしい楽曲を提供してきた現時点で世界最高峰のソングライター。僕は彼女と同時期にアメリカで育った同年齢という共通点もあるからか、以前からずっと彼女の歌詞とメロディに共感してきた。興味を抱いていることの多くが共通していて気が合う。これって一緒に曲を書く時には物凄く重要なんだよね。

Glass Animals - Tangerine

──この曲の歌詞には《ラーメン》や《Mr.ミヤギ》などのワードがありますが、ひょっとして映画『ベスト・キッド』が関係しています? あははは、まさに『ベスト・キッド』から着想を得たよ! ラーメンは僕が子供時代によく食べたんだ。ほら、乾麺にお湯を注ぎ、袋に入った粉末スープを入れるタイプのやつね。 ──“Space Ghost Coast to Coast”は、あなたの幼馴染みのことを歌い、2番目のヴァースではジェンダーのステレオタイプについて歌っています。「男らしさ」「女らしさ」の押し付けは、人の一生にどのようなダメージを与えると思いますか? 僕はアメリカのテキサス州で育った。ここでは男性器を持って生まれた場合、誰もがステレオタイプな男らしい行動を期待される。例えば、アメフトをやったり、感情を隠したり、男は「強いヒーロー」になるように期待されるんだ。少しでも弱さを見せたりしたら、それは欠点になった。幼い頃から男の「プシケー(魂、心)」に「男らしさ」が埋め込まれているって有害だよ。 “Space Ghost Coast to Coast”は、学校で乱射事件を起こそうとした僕の旧友について歌っていて、「一体どうしてそんなことを考えるのか?」と問いかけている。きっと幼い頃から男子に重くのしかかるジェンダーのステレオタイプだとか、男らしさへの期待が悪影響を与えたと思うんだ。多くの人達がこういう悪い行動へのトリガーとして音楽やビデオ・ゲームを挙げたりするけど、僕は他の理由の方が大きいと思うんだよね。

Glass Animals - Space Ghost Coast To Coast

──全く同感です。 ステレオタイプに当てはまらない人達が「自分は出来損ないだ」と感じ、傷つくと思う。若い時に自分が望まない振る舞い方や身なり、行動内容などを押しつけられると、頭が非常に混乱する。「常に型にはまるべき」と誰もが言ってくるけど、型にはまらず、人とは違う自分の個性を受け止める人生の方が、実際は一番エキサイティングだよ。 ──“Domestic Bliss”はドメスティック・ヴァイオレンス(DV)について歌っています。日本でもDVは深刻なテーマですが、イギリスではどのような状況なのでしょうか。 日本でDVが深刻とは残念なことだね。悲しいことに、新型コロナによるロックダウンでイギリスでもDVが増加中なんだ。英国内務大臣のプリティ・パテル(Priti Patel)は、ソーシャル・メディアを駆使して国民にこの問題への関心を高めるべく努め、DVに苦しむ人達に助けを求めるよう呼びかけている。でも、この国におけるDV問題と闘うには、僕ら国民にも出来ることが、もっと沢山あると思うんだ。

Glass Animals - Domestic Bliss

──“It's All So Incredibly Loud”が個人的には最も好きな曲ですが、これはどのようにして作られたのでしょうか。 この曲は、実は古いスパニッシュ・ギターを弾きながら全て書き上げ、後からシンセを足し、ギターの部分を外した。実は、アルバムの他の曲も全てこのギターで書いているんだ。15年前にロンドンのマーケットでたったの5ドル(約530円)で購入したのだけど、今でも愛用している。 先ほど僕は、「あっという間に起きたことを、それから何年も経った後にじっくり熟考して楽曲を制作した」と話したけど、この曲は人生のたった3秒間について歌っている。大半の人なら悪い知らせを伝えなきゃいけない立場になったことはあると思う。自分が伝えた内容を聞いた相手が打ちひしがれることがわかっていながら言うような状況下でね。自分の口から放たれる言葉と言葉の間に挟む沈黙と、相手の反応について描写しているんだ。永遠に続くように思えるような、静かな突然の爆発について。これは、僕がこれまで体験した中で、「耳を最もつんざくような出来事」だった。

Glass Animals - It's All So Incredibly Loud

──先ほどロックダウンの話が出ましたが、新型コロナウイルスの感染拡大は、あなたの生活にどのような変化をもたらしましたか? アルバム・リリースに合わせて今年と来年はツアーをしていたはずだったんだけど、全て中止になったよ! 僕らが企画した2日間に渡って、僕が世界一好きな会場 レッド・ロックス野外劇場でフェスを開催し、仲間のアーティスト達にも参加して貰う予定だったんだけどね。 ──そうだったんですね……。コロナはアルバム制作にも影響を与えましたか? 本作はコロナが拡大する前、つまり3月上旬に完成済だったのだけど、不思議なことにこの新作を書いた時の感情と共通する内容だったんだ。ジョーが事故に遭った時、僕らの活動予定は全て宙に浮いてしまった。しかも全てが鬱々としたものに見えて、ほとんど自宅に引きこもっていた。今思えば、あれはロックダウンみたいなものだったね。僕はノスタルジックな気持ちに浸ることで、こういった状況でも心の安らぎを得たのだけど、今回のロックダウンで人々がまさに同じ状況にいたことに気づいた。過去を振り返ることでノスタルジックな気持ちに浸り、「想い出」の中で再び生きる。これはとても不思議な偶然だった。 ──あなたの友人でもあるコリン・リード(Colin Reid)が監督した“Heat Waves”のMVは、ロックダウンのピーク時にハックニー(ロンドンの中心部北東寄りにあるエリア)で撮影されたそうですね。通りに住む人たちの郵便受けに紙を貼り、「(撮影日の)夜7時にワゴン車で通りを歩く人を窓から撮影してほしい」と頼んだと聞きました。 ストリートで大勢の人に会えてとても嬉しかったよ! 何より圧巻だったのは、それぞれが同じタイミングで自宅の窓から身を乗り出している皆の姿を目にしたこと。まるでライヴ・コンサートのように、最高に素晴らしい一体感を味わえる雰囲気だったな。 ──MVのエンディングでは、ステージ上にモニターを置いて、リモートでライブが行われる未来を描いています。このような時が、実際に来ると思いますか? このMVのエンディングは、「もし音楽業界に財政的支援が与えられなかったら、芸術はこういうことになる」というメッセージなんだ。通常のライヴを開催できる日が早く戻って欲しいし、個人的には待ちきれない。ライヴ配信をPCのモニターで観ても、実際に会場で観るのとは同じにならないからね。

Glass Animals - Heat Waves

──実際のところ、アフターコロナの世界でどのような表現をしていきたいですか? ネットの力を借りてライヴ・ストリームをやってみたい。これまでに観た無観客のライブ演奏は、観客の熱気がないこと以外は通常のライヴと変わらなかった。せっかくだし通常のライヴとは違う内容にすれば、何か凄いことができるんじゃないか? と思うんだ。 僕らは自分達の楽曲のステムデータから生素材のアートワーク・ファイル、3Dファイル、フォトショップ・ファイル、さらにはウェブサイト・コードまで、全てのものに誰もがアクセスできるようなオープンソースのウェブサイトを立ち上げた。これらの素材を使い、素晴らしいアートワークを作り上げた人も知っている。さらに、リスナー全員が結束し目を閉じることによって、新曲を聴くことができるウェブサイトも立ち上げた。顔認証システムが入っていて、ウェブサイト上で多くの人々が同じタイミングで目を閉じれば閉じるほど、楽曲を聴き進めることができるんだ。こうしたアイデアは極々一部だし、今後さらに出てくると思うよ。

Text by Takanori Kuroda

Glass Animals
Photo by POONEH GHANA

Glass Animals
Glass Animals 英オックスフォードにて、2010年に結成。シンガーソングライターでプロデューサーのデイヴ・ベイリーと、彼の幼い頃からの友人である、ドリュー・マクファーレン、エドモンド・アーウィン・シンガー、ジョー・シーワードの4人で構成される。デビュー・アルバム『Zaba』を2014年に、セカンド・アルバム『How to Be a Human Being』を2016年にリリース。サード・アルバム『Dreamland』が、2020年8月7日(金)にリリースされた。

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Glass Animals

Dreamland

2020.08.07(金) Glass Animals ダウンロード・ストリーミングはこちら

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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』インタビュー:サンフランシスコの実情と垣間見える希望

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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

サンフランシスコで生まれ育った二人の幼馴染が自分たちの経験をもとに作り上げた映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が、いま話題になっている。 そこで描かれているのは、アメリカ社会の現実だ。サンフランシスコで生まれ育ったアフリカ系アメリカ人のジミーには、子供の頃から憧れている美しい家がある。そんなジミーを見守る幼馴染みのモント。一軒の家を巡る物語から、家や街、友人や家族の問題が浮かび上がり、貧富の差や人種座別で分断が進む世界で「人生にとって本当に大切なものは何か」と映画は問いかけてくる。 映画の主人公、ジミーとモントのモデルになったのが、ジミーを演じたジミー・フェイルズと監督のジョー・タルボットだ。一緒にサンフランシスコで生まれ育った二人は、街の変化や今のアメリカ社会をどんな風に見ているのか。そして、友人と一本の映画を作りあげることは、彼らにどんな意味があったのか。二人に話を訊いた。

Interview:Joe Talbot & Jimmie Fails

━━今回の映画の原案はジミーが考えていたものだそうですね。 ジョー・タルボット(以下、ジョー) ジミーとは10歳の頃から友達だよ。彼が経験した人生と僕が経験した人生を、自然に融合させたのがこの物語なんだ。 ━━映画という枠を超えた、密度の濃いコラボレーションだったんですね。 ジョー この作品を作る前にもジミーと短編映画を作ったことがあって、いつもそれぞれの経験をもとに一緒にストーリーを築き上げてきた。今回の作品はこれまでで最も大きなプロジェクトではあるけど、その根底にあるのは今まで同じ関係性なんだ。 ━━それにしても、幼馴染と一緒にこういう大きな規模の映画を作るというのは貴重な体験ですね。 ジミー・フェイルズ(以下、ジミー) これまでの作品の制作とそれほど変わりはなかったけど、お互いのコミニュケーションは取りやすくなった。どうやればうまくいくのか、これまで以上にわかったことが大きな違いだね。 ━━自分自身を演じるというのは、役者としてはあまりないことでは? ジミー ちょっとセラピー的なところはあったね。過去を振り返って、その時に起こったことを改めて理解する。そういう自分との戦いというのは、生きている間、ずっと続くものだと思うけど、それがこの映画の撮影を通じてよりよく出来たと思う。自分の内面を再び見つめ直して、なぜ自分がここでこういうことをしているのかというのを深く理解できたと思うよ。 ━━演技を通じて実人生の記憶や感情が蘇ってくることもありました? ジミー そういうことは多かったね。まず、思い浮かぶのが演劇のシーンだ。演じた後に本当に涙が流れてしまって、撮影を中断してしまった。実際の経験と重ねて込み上げてくるものがあったんだ。コフィーが亡くなるシーンも同じように自分の経験したことを思い出してテイクごとに泣いてしまった。母親と対面するシーンでは実の母が登場するんだけど、あそこも感極まってしまったよ。 ジョー この物語はジミーの経験をもとにしているけど、僕も自分の人生と重なって感情が高ぶってしまったシーンがあった。実は撮影の数ヶ月前に父親が病気になって視力を失ってしまったんだ。父はライターで僕は文化的な家庭で育った。その父親が視力を失ったことと、映画のダニー・グローヴァーが演じた役がリンクして、彼を演出する時は胸に迫るものがあったよ。時々、両親が撮影を見にきていたしね。だから、ジミーとだけではなく、家族とも一緒に作り上げたような作品なんだ。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

━━お二人にとってはパーソナルな想いが強い作品なんですね。この作品は二人が生まれ育った町、サンフランシスコへのラヴレターでもあります。映画の中で黒人男性がスコット・マッケンジーが1967年に発表した名曲“花のサンフランシスコ”を歌うのが印象的ですが、あの曲にはどんな想いが込められているのでしょうか。 ジョー あの曲は<モントレー・ポップ・フェスティヴァル>が開催される時にPRソングとして作られたんだ。《街に若者たちが集まってくるけど害はないから心配ないよ》って地元の年配の人たちに伝えるためにね。だから当時は若者たちの間では人気がなかったけど、時が流れるなかで曲の良さが評価されるようになった。とくに曲の持つノスタルジックな雰囲気がね。サンフランシスコという街自体も同じで、今はノスタルジックな雰囲気を感じさせているけど昔は違ったかもしれない。そう思って使ったんだ ━━時の流れを感じさせる曲なんですね。 ジョー もうひとつ理由があって。映画ではマイク・マーシャルというアーティストが歌っているんだけど、この曲が生まれた時より、サンフランシスコのアーティストは大切にされていないと思うんだ。60年代、サンフランシスコのアーティストは、とてもグラマラスな存在だったのにね。そういう現状も伝えたかった。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

━━映画の中では、現在のサンフランシスコが裕福な白人と貧しい有色人種に分断された街に描かれています。60年代の自由で文化的な空気はそこにはありませんね。 ジョー 今サンフランシスコに暮らしている人は裕福な人が多い。街はお金を持っている人々に競売のように売られ、有色人種の居場所がなくなってきているんだ。だからサンフランシスコの本来の良さが失われつつあるという不安はあるよ。でも街のために活動している人々もいる。政治の世界を目指している友人もいるし、ホームレスシェルターで働いている人や、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)の活動を行っている人もいる。僕のように映画を作るよりも街のために頑張っている人がたくさんいる。だから希望は失っていないんだ。街を仕切っている人は力を持っているから、決して楽観的にはなれないけどね。 ━━今、アメリカではBLM運動が高まっています。ジミーとモントのように、自分たちの手で社会を変えようとしている人々が増えているのは希望を感じさせますね。 ジョー BLM運動で最も感銘を受けたのは、若者たちがストリートに出ていることだ。僕たちより上の世代は〈若者は携帯ばかり見ていてコミュニケーションを取らないし、行動に移していない〉とよく言うけど、今回の運動を通してそれは違うということが証明できた。若者たちは運動を盛り上げ、知らないことは学び、知識が間違っている場合は改めて積極的に動いている。大都市はそういう動きを直に感じられる場所なんだ。サンフランシスコの歴史を振り返ってみても、反戦運動やゲイ解放運動、移民の権利擁護運動が活発に行われてきた。サンフランシスコの人々は、これまでにも文化や政治に関心を示して立ち上がってきたんだ。大都市に必要なのは、そういう動きじゃないかな。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』で描かれていることは、日本を含め世界中で起こっていることでもある。経済優先で分断化された社会で、貧しい者が夢を持つことがいかに難しいことなのか。その厳しい現実に向き合いながら、美しい映像や詩的な表現でドラマティックに物語を紡ぎ出した本作は、アートの持つ力を感じさせてくれる。そして、どんなに現実が厳しくても夢や理想を信じずにはいられないジミーとモントの戦いは、BLM運動を始め社会を変えていこうとする人々の想いとも繋がっているのだ。

Text by 村尾泰郎

STORY

古き良きアメリカの面影を残すサンフランシスコ。そこで生まれ育ったジミーは、街の一角に建つ古い家にいつか住みたいと思っていた。その家はジミーの祖父が建てたと言われていて、彼にとっては誇りでもあった。しかし、貧しいジミーにとって高嶺の花。そんなある日、家が売りに出されたことを知ったジミーと親友のモントは思い切った行動に出る。
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

10/9 公開『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』 本予告

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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

新宿シネマカリテ、渋谷シネマカリテほかにて全国公開中 監督・脚本:ジョー・タルボット 共同脚本:ロブ・リチャート 原案:ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ 音楽:エミール・モセリ 出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー 配給:ファントム・フィルム 提供:ファントム・フィルム/TC エンタテインメント ©2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED. 【原題 The Last Black Man in San Francisco/2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/120 分/PG12】 字幕翻訳:稲田嵯裕里 詳細はこちら

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King Gnu、millennium paradeの世界観を銀座で体感!<『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON>フォトレポート

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King Gnu

2020年10月より地上階から地下4階まで全園を変容させる「シーズン2」をスタートさせたGinza Sony Park(銀座ソニーパーク)。さまざまな実験的プログラムを展開しているこの場所で、プログラム第14弾として、いま日本のバンドシーンを席巻しているKing Gnuとそのボーカル・常田大希が主宰する音楽家集団のmillennium parade、そしてその両方のクリエイティブ面をサポートしているPERIMETRONの“現在”が詰まった<『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON>が本日10月21日(水)より開催される。 人生の途中経過にある3つのクリエイティブ集団と変化し続ける空白空間として銀座に鎮座するGinza Sony Parkがコラボする本プログラムは「工事中」をテーマに掲げ、音楽やアートが点在するカオティックなパークとして実現。King Gnu、millennium parade、PERIMETRONそれぞれの表現を濃密に抽出したさまざまな仕掛けが散りばめられている。 King Gnuの“飛行艇”やmillennium paradeの“Plankton”などの楽曲のミュージックビデオやアートワークから着想を得たアート展示や、昨年STUDIO COASTで実施されたmillennium parade<Live At STUDIO COAST 2019>でも披露された“Fly with me”の3D映像をさらにブラッシュアップした映像を体感できるなど、King Gnu、millennium paradeの楽曲の世界観を存分に体感することができる。 PERIMETRONのプロデューサーであり、クリエイティブディレクターの佐々木集はこのプログラム実施にあたり、「僕たちの作品のハイディテールさも含め、楽しんでほしい。今回予約制ということで、すでに僕たちのことをある程度知ってくださっている方が来るということを前提に空間づくりをしています。ミュージックビデオだったり、アートワークといった僕たちが遺してきたものを知っていると、より“こんな所にさらに隠されているのか”と思える要素が随所に散らばめられています。なので、ただひとつの通路をサッと通り抜けるよりも、僕たちが作ったグラフィックスで埋め尽くされたポスターの一部一部をズームするような感覚で見てもらえると嬉しいです」と、その意気込みを語っている。 この度Qeticでは、<『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON>のフォトレポートを実施。本プログラムの一部をこのレポートで体感してみてほしい。

PHOTO REPORT 『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON

King Gnu
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King Gnu - It’s a small world

King Gnu - Slumberland

King Gnu - 飛行艇

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millennium parade – Plankton

millennium parade - Fly with me (Official Teaser)

King Gnu
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King Gnu 内覧・インタビュー&メイキングムービー|Ginza Sony Park 『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON

Photo by 中村寛史

INFORMATION

King Gnu

『#014 ヌーミレパーク(仮)』DIRECTED BY PERIMETRON

2020年10月21日(水)~2021年1月31日(日) ※年末年始の休園日を除く 11:00~19:00 入場無料(入場制限あり/ 事前予約制:詳細は特設サイトをご覧ください。) Ginza Sony Park 事前予約制について 新型コロナウィルス感染症の拡大防止対策の一環で、全日程で事前予約制となります。特設サイトの予約ページからご予約の上、ご来園ください。予約は先着制です。定員になり次第、各時間枠の予約受付を終了します。 10月6日(火)から開始した11月19日(木)までの第一回目の予約枠は、ご好評につき、すでにほぼ受付終了になっています。次回の予約開始は11月初旬ごろに、特設サイトや公式SNSでご案内予定です。 ・ご予約の時間に入場いただいても、人数制限をさせていただく体験展示等もあります。あらかじめご了承ください。 ・1回80分の時間枠指定の入れ替え制です。 ・予約数には限りがあるため、ご予約は原則お1人1回(2名まで)でのご協力をお願いします。 詳細はこちら

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Photo Session|gato × HUMMEL HIVE at Shibuya

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hummel × gato

1923年に創業したデンマークのスポーツブランド『hummel』 北欧ブランドらしいシンプルで洗練されたデザインがヨーロッパを中心に世界中の人々に愛されている。 今秋、新たに発売されたhummelのハイエンドライン『HUMMEL HIVE』 ハンドボールシューズやテニスシューズ、ランニングシューズをベースに、細部にこだわったプレミアムなシューズとなっている。 今回は、東京で活動する5人組エレクトロバンドgatoのルーツである渋谷の街を背景に『HUMMEL HIVE』の魅力を伝えるべくフォトセッションを実施。 渋谷で存在感を示しはじめた彼らとHUMMEL HIVEが邂逅する瞬間を切り取った。

gato × HUMMEL HIVE

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REACH LX 3000

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POWER PLAY SUEDE

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MARATHONA VEGAN ARCHIVE

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REACH LX 3000 PRICE:¥14,000+tax COLOR:NAVY、WHITE/BLACKBERRY CORDIAL ハンドボールシューズからインスパイアされたスニーカーで、アッパーはレトロなメッシュ素材にPUのメルト加工やエンボス加工など細部にこだわったデザイン。ソールにはハンドボールで培った技術を反映させたREACHソールを採用し、履き心地をアップ。定番アイテムとは一味違ったデコンストラクテッドモデル。クッションに優れたオーソライト社製インソール搭載。

hummel × gato
POWER PLAY SUEDE PRICE:¥13,000+tax COLOR:CEDAR WOOD 80年代のテニスシューズをベースにした、プレミアムなオールスエードシューズ。シンプルなデザインで、踵部にアクセントとしてリフレクターを配置。北欧デザインを感じさせる一足。11月初旬発売予定。

hummel × gato
EDMONTON HIVE PRICE:¥23,000+tax COLOR:DUSTY OLIVE 90年代のハンドボールシューズをベースにしたデンマーク流チャンキースニーカー。プレミアムレザーを使用した高級感のあるボリュームシューズ。クッションに優れたオーソライト社製インソール搭載。

hummel × gato
hummel × gato
MARATHONA VEGAN ARCHIVE PRICE:¥14,000+tax COLOR:BLACK/WHITE、MARSHMALLOW 80年代に長距離ランナー向けにつくったランニングシューズをベースに、ビーガンレザーとリサイクルメッシュのアッパーをコンビしたサステナブルシューズ。人気の高いモデル「マラソナ」のプレミアムシューズ。クッションに優れたオーソライト社製インソール搭載。変え紐付き。
hummel × gato

今回紹介したアイテムは、ヒュンメルスニーカーのオフィシャルストアS-Rush(エスラッシュ)限定で取り扱い。 原宿、横浜、大阪、あべのの4店舗とオフィシャル通販サイトで発売中。 S-Rush 原宿店 東京都渋谷区神宮前3-24-1 インザストリームビル 1F TEL:03-6455-4125 S-Rush 横浜店 神奈川県横浜市中区新港1-3-1 MARINE & WALK YOKOHAMA 1F TEL:045-225-8075 S-Rush 大阪店 大阪府大阪市北区角田町5-15 HEPFIVE 5F BOSTON CLUB内 TEL:06-6366-3927 S-Rush あべの店 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-2-30 Hoop 3F BOSTON CLUB内 TEL:06-6629-1775 オフィシャルサイト

Model by gato Photo by Kana Tarumi Styling by Daiya Hashimoto <ITEM LIST> PHOTO SESSION age inner:infini Dress shirt:SAWL coat:stylist own pants:stylist own socks:stylist own takahiro shirt:KONYA vest:KONYA pants:KONYA socks:stylist own hiroki shirt:SAWL jacket:SAWL pants:SAWL socks:stylist own kai necklace:stylist own watch:stylist own rings:stylist own Tshirt:EDGE jacket:KONYA coat:KONYA pants:KONYA socks:stylist own sadakata shirt:SAWL jacket:SAWL pants:stylist own socks:stylist own SHOES LINEUP REACH LX 3000 pants:infini Dress POWER PLAY SUEDE MARATHONA VEGAN ARCHIVE(MARSHMALLOW) pants:SAWL OTHER SHOES pants:stylist own

gato
gato 2018年、突如インディーシーンに現れたエレクトロバンド。 post dubstep, future bass, hiphopといった昨今のグローバルトレンドを抑えつつも、日本人の琴線に触れるオリエンタルなサウンドは、現行のインディーシーンにおいて唯一無二の存在。高い歌唱力、曲を繋いで展開していくDJライクなパフォーマンス、映像と楽曲がシンクロするライブには定評があり、クラブシーンやギャラリーなど、ライブハウスの垣根を超え出演オファーが続出。着々とファンを増やしている。 2019年末には、無名ながらも恵比寿LIQUID ROOMの年越しイベントにてサブステージのトリを飾った。2020年10月に初の全国流通盤『BAECUL』をリリース。収録曲「C U L8er」がNHK-FM『ミュージックライン』のタイアップ曲に選出。またApple Music ではエレクトロ部門にてバナー展開、Spotify では公式プレイリストに収録曲が多数選出された。同年11月にはゲストアクトにNo Busesを迎え、渋谷WWW にてリリースパーティを開催予定。

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gato

gato 1st album『BAECUL』

2020.10.14(水) gato GATO-001 ストリーミング、DL、CD ¥2,300(+tax) (収録曲) 1. G0 2. ame 3. dada 4. babygirl 5. miss u 6. orb -interlude- 7. 9 8. luvsick 9. C U L8er 10. middle 11. males -interlude- 12. throughout 13. natsu 14. the girl ダウンロード・配信はこちら

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gato

gato 1st Album "BAECUL" Release Party

2020.11.27(金) OPEN 18:30/START 19:30 渋谷WWW ADV ¥2,800/DOOR ¥3,300 (1ドリンク別) GUEST ACT:No Buses ACT:gato TICKET:e+ チケットはこちら

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点と血の思考 – Vol.1「私的アーカイブコレクション」

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GraphersRock

GraphersRockとして活動するアートディレクター/グラフィックデザイナーの岩屋 民穂氏。テクノやレイヴカルチャーを基調としたそのオリジナルなデザインで、各方面で活躍の場を広げている。そしてこの度、そんな岩屋氏のデザインの源をたどるコラム『私的アーカイブコレクション』がQeticでスタート! 今回は本コラムの記念すべき第1弾をお届け。

GraphersRock 岩屋 民穂 点と血の思考 - Vol.1「私的アーカイブコレクション」

「価値」について日々考えている。フリーランスで仕事をしていると、大きな組織に属してもいない自分に価値を見出してデザインオファーをしてくれる方に制作で価値を還元するにはどうするべきか? とか、この先もデザイナーとして価値があると思われる為にどう成長していくべきなのか? とか、シリアスで少し頭が痒くなるような事から、レアなブランドアイテム争奪戦の模様をネット越しに眺めながら、市場価値のみが絶対の価値判断になってしまっている受けて側の思考停止と、その市場価値を中心においたマーケティングに一抹の不安を感じたり、また物に宿っていると思っている価値よりもその物を通して得られる経験こそが本当の価値のはずなんじゃないかとか、いつでも安定して売却できるという部分に価値が特化された物が経済では最強なんじゃないか等々、とにかく例をあげるとキリがないが、常に様々付いて回る「価値」とは何かという根源的なものに自問自答を繰り返し続けている。 そんな価値について考えるひとつのトレーニングといったら大げさだが、子供の頃から趣味として、今ではデザインの資料収集として、市場価値が無いゴミのような物に、自分なりの視点から価値を見出したものを集めファイリングをしている。感覚的には河原で見つけた綺麗な石を拾ってくるようなことに近い。「そんなもの家に持ち帰らないでほしい」と、よく親から怪訝な顔をされていたが、他者とは切り離された自分が見つけた価値を集めることが単純に好きだった。

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収集物の多くは日用品のパッケージやチラシ・フライヤー、レシートや伝票等、どれも一時的な役割を果たしたのち瞬間的にゴミになってしまうものばかりだが、ドットインパクトプリンターの味気ない印字がされた伝票に工業的なカッコよさを感じたり、上品なレストランやホテルはレシートまでもが気品漂っていたり。また海外に行くと日本では見たことない様な文字組や奇抜なバランスで構成されたデザインばかりで、自分にとってはボーナスステージのような感覚で常にファイリング用のクリアケースとパッケージをその場でバラす為のカッターを常備しながら行動している。中でも日本製品のパッケージが現地の言葉や習慣に沿ってローカライズされているものはパラレルでバグった錯覚があってとても大好きだ。 誰からも価値を提示されていないアノニマスなものをファイリングし続けていくと、次第に何か体系じみたものが見えはじめ、自分の中の常識を再構築されると同時に、見えない価値を見出す為の洞察力を鋭く高めてくれる。また物質的なものを集めることは、保管という制約の中で手当たり次第収集するのではなく、資料として必要なものなのかどうか、取捨選択する判断力も鍛えられる。 そんな無価値だと思われているものを集める過程で発見、見出した何かを自分のデザインに反映させ、価値あるものに還元できることが自分にとって最高に快感なのである。

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PROFILE

岩屋 民穂

GraphersRock(グラファーズロック)の名義でアートディレクター・グラフィックデザイナーとして、パッケージ、広告、装丁、ファッションなど多岐にわたる分野でアートワークを展開している。 Official TwitterOfficial Instagram Official HPはこちら

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